世代間交流で「共感性」が伸びる子、伸びない子 「場を作るだけでは効果なし」必要な2つの要素
「仕掛け」と「コーディネーター」を軸に学校で取り組みを
前述の読み聞かせボランティアの取り組みでも、反省と改善が行われている。まず「仕掛け」であるコンテンツに問題はなかったか。ここでの仕掛けは6年生が1年生に読み聞かせをする技術を身に付けることだが、これには子どもたちも興味を持ち、楽しんで取り組んでいた。最終的に発表会があるという点も、彼らのモチベーションを高めている。 それならと、ボランティア団体は「コーディネーター」に着目した。その後の交流授業では、この学校の元保護者であり読み聞かせの実技指導者でもあるAさんがコーディネーターとなり、交流授業プログラムの内容を熟慮のうえに練り上げている。 「積極的に高齢者と交わらない子どもには、ボランティアの側から適度な働きかけがあるといいでしょう。それを高齢者に意識してもらうこと、一人ひとりの子どもの特性を知っておくことも必要なので、全体に目を配るコーディネーターの存在は大きいと思います」 村山氏が語るこうした役割を果たしているのがAさんだ。子どもたちにとっては自分の親に近い世代でもあり、教員にとっても高齢者より身近な存在であるコーディネーター。子どもと高齢者、高齢者と教員をもつなぎながら、例えばどのボランティアとどの子どもを同じグループにするかなど、学校と高齢者ボランティアと調整および連携しながら緻密に設計しているそうだ。 「世代間交流は場を作るだけで必ずしも夢のようにうまくいく取り組みではありませんが、近年の『居場所』の活動にも必要な発想だと思います。意志を持って取り組む人たちの増加によって、成功例も増えています。世代間交流が効果を生んでいる自治体や施設では、子どもが長じて保育士や介護士を目指したり、職員として施設に戻ってきたりするようなケースもあります」 村山氏は、世代間交流が進みにくい理由の1つとして、親世代も核家族で育っていることを指摘した。 「親自身も高齢者との接し方がわからないことが多く、そうした家庭の意識が子どもにも影響していると思います。この点をクリアできればもう少し社会も変わると思うので、そうした意味で、学校で広く取り組むことの意義は大きい。先生方がゼロから授業を作るとなると大変ですが、熱意や経験のある高齢者ボランティア団体も存在します。ぜひそうした人たちの力を借りてみてほしいですね」 参考文献 1)村山陽ほか(2021). 小学校における高齢者の読み聞かせボランティア活動が児童の共感的関心の向上に及ぼす影響,日本世代間交流学会誌 11(1) 13-22. 2)村山陽 (2009) 高齢者との交流が子どもに及ぼす影響,社会心理学研究25(1) 1-10. 3)村山陽 (2007) 子どもたちの抱く「高齢者イメージ」 : 社会的表象理論の視座からの分析, 人間と社会の探究 65 43-54. 4)村山陽ほか(2012)小学生時の世代間交流が中学入学後の地域交流参加意識に及ぼす影響,老年社会科学 34(3) 382-393. 5)Yoh Murayama et al (2022) Effects of Participating in Intergenerational Programs on the Development of High School Students’ Self-Efficacy, Journal of Intergenerational Relationships, 20:4, 406-423 6)村山陽ほか(2014). 高齢者が若者に抱く世代差意識とその対処方略についての探索的研究,日本世代間交流雑誌, 4, 95-101. 7)村山陽 (2013). コミュニティにおける世代間交流 (加藤潤三ほか(編), 『コミュニティの社会心理学』), pp.211-228.) ナカニシヤ出版. (文:鈴木絢子、注記のない写真:buritora / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部