神津善行「妻・中村メイコを大晦日に見送って1年、斎場で彼女が骨になった時、肉体は借り物だと感じて」
2023年の大晦日に89歳で旅立った女優の中村メイコさん。突然の別れから1年、夫の神津善行さんが、一周忌を前に妻への思いを語ります(構成:篠藤ゆり 撮影:藤澤靖子) 【写真】メディアで公開するのは初という「メイコの休息所」 * * * * * * * ◆話したいことが毎日いっぱいある 1年たったら気持ちの区切りをつけなければ、とは思っているのですが、なかなかそれができなくて。 ダイニングテーブルの彼女の指定席には、この1年、誰も座らせていません。その席からはベッドルームも台所も見えるので、彼女は座ったままで私の姿を目で追える。最期のほうは車椅子でしたし、いったん席に座ると、そこから離れませんでした。 亡くなった日のことは、ハッキリ覚えています。12月31日、『紅白歌合戦』を見ている途中で「もう寝る」というので、車椅子を押してベッドに連れていきました。でも僕がテレビのある場所に戻ろうとすると、「ちょっと変な感じがするから起こして」と僕を呼ぶんです。 そこで電動ベッドを起こして、しばらく身体を撫でていたら、僕の小指に自分の人差し指を引っかけてきて……。たぶん、手を握っているつもりだったんでしょう。その状態で1分くらい話したかな。 「大丈夫?」と聞いたら、「大丈夫」と答えて、次の瞬間、指が離れて僕に寄りかかってきました。そして、声をかけてもだんだん反応しなくなったのです。 すぐに娘たちに電話し、病院と警察に連絡して、医師に来ていただきました。亡くなる2年前に大腿骨を骨折し、それからは座ったままだったので、血栓ができやすかったのでしょう。死因は肺血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群でした。 お医者さんは「ものすごく珍しい。ご主人の腕のなかで、まったく苦しまずに逝くなんて、最高の亡くなり方です」とおっしゃっていました。
斎場で彼女が骨になった時に感じたのは、肉体は借り物であって、そこに命を入れて使っていたのだということ。借り物の肉体が使いものにならなくなったら、もう捨てるしかない。でも、中身はちゃんと存在しているし、その中身と、僕はこれからもつきあっていく。そう思い、自分なりに「宗教改革」をしようと思いました。 というのも、お寺さんも最近は檀家さんが減っているせいか、なかなかお金にシビアなようで。大変なのはわかりますが、それが本当に仏の道なのかという疑念があったので、だったら特定の宗教ではなく、僕なりの祀り方をしようと。ですからうちには、仏壇もありません。 その代わり、棚の一角を家に見立てて、ドールハウス用のミニチュアの家具や小物を集めてメイコの部屋を作りました。名付けて「メイコの休息所」。お酒が好きな彼女のためにバーカウンターも作りましたし、キッチンにはちゃんと料理の用意もしてあります。 亡くなる2年くらい前から、僕が料理をするようになり、それを彼女は本当に感謝してくれていました。ですから、ちゃんとテーブルの上に料理を置きたかったんです。 その部屋には彼女の写真もたくさん飾ってあるし、テレビも見られるようになっていて、死ぬ6日前に収録された『徹子の部屋』の場面を貼ってあります。 階段を上がると2階がベッドルームで、ベッドの上に置いてあるミニチュアの帽子ケースの中に僕らの結婚指輪を入れています。なくすと困るからといってあまり外ではしていなかったけれど、彼女はその指輪をすごく大事にしていました。 毎朝、メイコの部屋にライトを当てて、しばらく話しかけます。「もうすぐそちらに行くから、ちょっと待ってて」なんてね。「昨日はこんな人と会ったよ」とか、毎日、話したいことがいっぱいあるんです。話すと、僕も落ち着く。とにかく1年間は、毎日、話しかけようと心に決めていました。