<静かに進む日本の人材流出>海外移住を決断させる4つの志向性、日本経済のために見つめ直すべきこと
人はなぜ動くのか?海外移住の光と影
私は、30年以上にわたり人の国際移動について研究してきたが、日本人の海外移住の動きを特に強く意識するようになったのは、東日本大震災以降である。私の周りで海外移住という選択肢を真剣に考え始め、実際に移住した人が確実に増えたからだ。 日本人に海外への移住を決断させる「プッシュ要因」には共通点がある。様々な整理の仕方があるだろうが、私は、次の4点が共通の志向性として挙げられると考える。 (1)「自己実現」:より恵まれた職場環境で働きたい。また、人口が増え、将来的な市場の成長と大きさ、自らの事業の拡大が見込める国でビジネスをしたいと考えている人や研究者などがこれに当たる。 (2)「生きやすさ」:日本の伝統的な規範、価値観から逃れたい人。女性の場合、就業機会や昇進機会の制約、職場のストレスから解放されたいという人も多い。また、日本は子育ての規範意識も強く、「育てにくさ」を感じる人もいる。 (3)「日本の災害、安全保障、長期的な経済リスク回避」:11年~18年の間、私は豪州へ移住した日本人に対してインタビュー調査を行ったが、日本の長期的なリスクについて言及した人々が半数を超えた。また、「将来、日本が戦争に巻き込まれるのではないか」「子どもが徴兵される時代が来るのではないか」という不安を抱えて移住した人もいる。経済リスク回避は震災直後、またその後も変わらず、海外移住の最も大きな動機だった。日本の財政破綻や少子高齢化の進展による年金制度の持続が困難になるなどを含む経済リスクが生活の質よりも大きく海外移住志向に影響していた。特に子どもを持つ親にこの傾向が強い。 (4)「豊かさの追求」:相続税・贈与税・キャピタルゲイン税などがない国、あるいは税率が低い国に移住する富裕層らがこれに当たる。 一方、海外で「外国人」として生活することは、様々なリスクもある。 まず、永住権の取得を目指しても、誰もが永住者になれるわけではない。しかも、永住権の取得は徐々に難しくなってきている現実がある。海外に移住するためには、まずは何かしらのビザを取得しなければならないが、私の住む豪州では現在、雇用ビザの取得が難しく、特定の専門職や高いスキル、語学力を持って活躍できる人でなければビザを取得することができない。 豪州に限らず、移民政策は政治的アピールとして利用されることも多い。したがって、現在、就労ビザが下りている職種でも、あるとき、突然更新を拒否されて帰国を余儀なくされる可能性もある。 近年注目されるワーキングホリデーでの仕事も業種・職種は非常に限られており、現地の豪州人が希望しないものであることが多い。 日本ワーキング・ホリデー協会が19年に行った調査では、豪州へのワーキングホリデー渡航者および経験者の76%が飲食産業に従事し、続いて多かったのが農業(44%)、清掃業・小売業(各9%)、オーペア業(個人宅での家事・育児サポート業)(7%)である(複数回答)。 しかも、こうしたセクターで働く若者たちには、最低賃金が支払われていないケースが多く、社会問題となっている。 米国務省による『人身取引報告書』は、豪州におけるワーキングホリデー制度のもとで起こっている外国人の労働状況に警鐘を鳴らしている。 これは、メディアがよく指摘する「若者の自己責任論」で片づける問題ではなく、国際交流という本来の理念に基づき、全ての国が労働法の遵守を徹底していくことが必要だ。労働搾取、雇用の調整弁として利用される状況を放置してはならない。
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