「あなた本当は田中さんじゃないよね」…”地面師詐欺”に協力した「弁護士」が突如裏切って”なりすまし役”を問い詰めたワケ
Netflixドラマで話題に火が点き、もはや国民的関心事となっている「地面師」。あの人気番組「金スマ(金曜日のスマイルたちへ)」や「アンビリ(奇跡体験!アンビリバボー)」でも地面師特集が放映され、講談社文庫『地面師』の著者である森功氏がゲスト出演した。同書はすべて事実を書いたノンフィクションであり、ネトフリドラマの主要な参考文献となっている。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 不動産のプロですらコロッと騙されるのだから、私たち一般人が地面師に目をつけられたらひとたまりもない。そのリスクを回避するためには、フィクションであるドラマよりも、地面師の実際の手口が詳細に書かれた森氏のノンフィクションを読むほうが参考になるだろう。 地面師たちはどうやって不動産を騙し取るのか。森功著『地面師』より、抜粋してお届けしよう。 『地面師』連載第74回 『弁護士まで加担して「法律の抜け穴」を研究し尽くす“地面師”集団…なかなか根絶やしにできない「闇の住人」たちの実態に迫る』より続く
警察がはじめから捜査を渋るパターン
ここまで地面師たちが手を染めてきた案件の例を挙げてきた。被害者の告発を受けて警察の知能犯係が調べ始め、捜査が実を結んで犯行グループを摘発した事件もある半面、多くは捜査が難航し、立件にいたっていない。あるいは警察がはじめから捜査を渋り、うやむやになっているパターンもかなりある。 たとえば2017年、ある地面師グループの身柄を四谷警察署が拘束した事件があった。その摘発現場をスマホで撮影した動画が手元にある。 暑い盛りの8月2日、場所は四谷3丁目の交差点に近いとある法律事務所だ。弁護士立ち会いの下、なりすまし役の地主女性を仕立てた地面師たちが買い手の不動産会社と交渉している場面である。 「ねえ、田中さん、あなた本当は田中さんじゃないよね」 ソファーに向き合って座っている初老の女性に弁護士が問いかけている。地主の姓が田中のようだ。弁護士の言葉を受けた女性は凍り付いたように青ざめ、うつむいている。沈黙が流れた。 「私、ちゃんと調べたんだから知っていますよ。あなたは田中さんじゃないんですよ」 さらに沈黙が続く。冷房の音がやたら響いているが、部屋の中は蒸しているようにも思えた。