「あなた本当は田中さんじゃないよね」…”地面師詐欺”に協力した「弁護士」が突如裏切って”なりすまし役”を問い詰めたワケ
怪しい取引に立ち会ってしまうワケ
取引に立ち会ったのは、弁護士のほか、ニセ田中、ニセ田中を紹介した太った不動産ブローカー、買い手の不動産会社の社員2人、さらに経営コンサルタントを称する男性の6人だ。法律事務所に顔をそろえた6人のうち、スマホのカメラは全員の姿をはっきりとらえているわけではない。後ろ向きだったり、パーテーションで顔が隠れていたりしていてよく見えない。 その場にいて録画した本人に会うことができた。当の法律事務所の職員である。さすがに裏事情に精通している。取引の経緯を説明してくれた。 「この日は大田区の池上にある住宅地の売買予約を交わすため、関係者が集まりました。実は弁護士には、地面師側から話が持ち込まれたのです。つまりうちの弁護士もこれが地面師詐欺だとなかば感づいていて、その話に乗っていた。ですが、事前に書類を送ってもらったところ、印鑑証明やパスポートの偽造の出来があまりに悪いので、ばれてしまうのではないかと不安になった。それを恐れて、みずからなりすまし役を問い詰めることにしたのです」 事前に怪しいと気づいていたのなら、取引に立ち会うことを断ればいいようなものだ。なぜ、そうしなかったのか、職員に質問してみた。 「地面師かブローカーかわからない人たちから持ち込まれるこの手の話は初めてではなく、それまでにもけっこうありました。取引に立ち会うだけで、5万円から10万円の報酬をもらえますので。ほかに仕事がないので、この手の不動産取引の依頼が多い。仮に地面師からの話でも、背に腹は代えられない。それでつい乗ってしまうということでしょう」
摩訶不思議な光景
法律事務所の職員はこうも打ち明けた。 「知り合いの不動産ブローカーから、地主の田中を連れて行くので先生に立ち会ってもらいたいと聞いた、と弁護士が言えば、詐欺とは知らなかったことになります。警察も、うちの弁護士と彼らの取引について、ある程度は把握しているのでしょうけど、逆に弁護士を通じて地面師の情報を得ることもできるので、摘発することはない」 つまり、くだんの弁護士は地面師グループからの依頼で取引に立ち会っていることになる。弁護士はなりすましのニセ田中や紹介者のブローカー側に立ち、法律事務をする役割を担っている。にもかかわらず、依頼者を問い詰めるという摩訶不思議な光景なのである。 おまけにこのときの取引では、くだんの弁護士はあらかじめ四谷警察署に連絡を入れ、捜査員が部屋の外で待機していたという。そしてスマホの動画は、地面師たちの“逮捕シーン”までとらえることになる。