「ピンチはチャンス」時代を生き抜いた京都の老舗 “ミシュラン料亭”の本店料理長が全店でもっとも若い理由
高台寺和久傳(京都市東山区)はミシュランで何度も星を取っている有名店ですが、実は料理長は長年の経験を積んだベテランが務めるわけではありません。 背景には女将(おかみ)の桑村祐子さんの思い切った決断がありました。人を育て、育った人の独立を応援する──。それは店にとってもプラスになるといいます。 和久傳は2020年に創業150周年を迎えました。本質を変えず、でも時代に合わせて業態を変化させる「不易流行」が和久傳の指針のひとつ。新店のオープンや新しい企画を次々と打ち出してきた和久傳は今後、どのように歩んでいくのでしょうか。
【桑村祐子(くわむら・ゆうこ)】 1964年、京都府峰山町(現・京丹後市)生まれ。 大学卒業後に大徳寺の塔頭に住み込んで修行した後、1989年に高台寺和久傳に入社。 2007年に高台寺和久傳の女将、2012年に代表取締役に就任。 2024年に食品の製造販売をする(株)紫野和久傳と、料亭の高台寺和久傳など数店舗を運営する(株)高台寺和久傳、両社の代表取締役に就任。
「ピンチをばらまいている」
和久傳には本店の「高台寺和久傳」、カウンターがある「室町和久傳」、京都駅の伊勢丹に入っている「京都和久傳」などがありますが、本店の厨房を仕切っているのは全店でもっとも若い料理長です。現在の料理長、鶴田信介さんは39歳。就任時は33歳でした。 桑村「本店は保守的になりがちなので若い人が来てくれたほうがいいというのもありますが、私が安定するのが怖いというか、不安定なほうが面白いということもあります。問題が起きても、人が育ち、会社にとっても蓄積が残るという環境をつくることが好きなんです」 ただ、料理長が代わることのリスクもあります。怖さはないのでしょうか。 桑村「むしろ、それがいいんです。そうしないと人間は成長しないと思う。ピンチはチャンスといいますけど、自らピンチを招くことはなかなかできない。だから私はピンチをばらまいている。 でも、それは彼らだけではなく、店にとっても絶対にプラスがあると思うのです」