「背水の陣で挑み、失敗をしなければ経営者にはなれない」 「TSUTAYA」を展開する社長が挑む「出版流通革命」とVポイントの展望
◆ただのデジタル転換ではない、出版流通改革とは
――他に新しい事業展開はあるのでしょうか。 今年力を入れているのが、本の事業です。 出版流通革命は、私自身がほぼライフワークとして行っていて、着実に進めています。 ひとつ言えることは、紙の本が電子書籍になるという単純なフォーマット変換の話だけではありません。 紙の本や雑誌には、デジタルコンテンツでは表現しきれない「世界観」があります。 また雑誌の特集の組み方などは簡単にデジタルには置き換えられません。 コミックにしても、やはり手触り感が必要な場面もあります。 問題は出版社や書店がいまだに過去を捨てきれず、ビジネス上の慣習を変えられずにいることです。 言葉では「変わらなければいけない」と言いながら、具体的に動こうとしたがりません。 それが出版流通業界の最大の課題です。 ――基本構造は昔のままの出版流通を変えるには、どうすればよいのでしょうか。 私が思うに、改革は辺境の力でしか起こりません。 私たちは、出版流通の外側から変革を起こそうとしています。 そのひとつとして売り方の変革を進めてきました。 書店を単純に、本を多量に流通する場としては捉えていません。 カフェなどと組み合わせる、これまでになかった提案の仕方で書店に来る価値そのものを変えてしまおうと挑戦し続けています。 その一方では、出版業界をあげてやらなければいけないことがあると考えています。 そのひとつをスマホアプリでやろうとしています。 出版社、取次、書店はもちろん、作家の方とコンシューマーがダイレクトにつながるような場をアプリで作りたいと思っています。 しかもTSUTAYAのお客さんに限らず、書店が好きな人とか、書店の人のためのブックアプリといったオープンなものにしたいと考えています。 つまりリアルのよさとデジタルデバイスのよさを掛け算した仕組みを作ろうとしているのです。 さらに今、紀伊國屋書店さんと日販さんと組んで進めているのが、私たちが本を買い切ることで、利益率を変えてもらう取り組み。 これは商慣習を変える試みです。 ただ、出版社も積極的に取り組まれるところと様子見をされるところがいらっしゃいます。 私たちは胸襟を開いていますので、ぜひ他書店さんと一緒に、粗利改善に取り組みたい。 書店同士の競争は、あっていいし、むしろ健全なことだと思います。 ですが、業界構造を変えるとか、仕入れのあり方を変えるといったことは、垣根を越えみんなでチャレンジしていきましょうと訴えたいです。