大学病院を辞めた開業医が明かす、その違いとは?「医師の働き方改革」で何が変わる?小児科医として、患者に伝えたいこと
大学病院の勤務医から転身し、小児科医として開業した松永正訓先生。長年医療の現場に携わってきた松永先生が、その実態を赤裸々に明かした『開業医の正体』が発売中です。開業した際のお金事情や患者・患者家族に思うことなど、リアルな事情が綴られる中、あらためて松永先生が語る勤務医と開業医の違い、医師の立場から患者に伝えたいことは――。 【書影】開業医のリアルと本音を包み隠さず明かした『開業医の正体』 * * * * * * * ◆何をもって「儲かる」と考えるか ――体調面での懸念から19年間務めた大学病院を辞め、小児科の開業医へ転身されて17年。「儲かる」職業ではないのですか? 「儲かる」という言葉ですが、単に金銭的なことを言うなら収入は大きく増えました。一般に勤務医の年収は1000万円から1500万円くらいです。公立病院の部長とか、病院長とかになるともう少しいいのかもしれません。開業医の収入は、勤務医の3倍くらいと言われています。もちろん、成功した人の話ですが。 ただ税金が半端ないので、お金が目の前を通り過ぎていくという感じです。その辺りのことは本の中で詳しく述べました。それでも収入は確かに上がりましたね。でも開業医には勤務医には分からない大変さがありますので、単に「儲かった」と喜んでいるわけではありません。何をもって「儲かる」と考えるかは、その医師の人生観によると思います。
◆開業医になって良い点、悪い点について ――それでは、開業医になって一番のマイナス面は? 私は長く大学病院にいて、研究をすることが大好きでした。ちょっとカッコつけて言うと、私は医者であると同時に科学者でした。サイエンスというのは誰も知らないことを明らかにすることが任務ですから、その誰も知らないことを国際学会で発表したり、英語論文で発表したりするのが本当に楽しかったです。 開業医になると、さすがに研究はできません。これが一番残念なことです。今でも研究をしているときの夢をしょっちゅう見ます。大学には臨床・教育・研究とバリエーションがあります。開業医は毎日、朝から夕方まで外来診療をやっています。変化がありません。ずっと座りっぱなしで、正直、しんどくなるときがあります。 ――では、逆によかった点はありますか? 本に詳しく書きましたが、大学病院にはブルシットジョブがたくさんあります。 え、ブルシットジョブですか? 何の意味もない、ばかばかしい仕事のことです(笑)。大学病院ってプロフェッショナルな医師の集団みたいなイメージがありますが、上下関係の大変厳しいちっちゃな集団です。教授が頂点にいて、医療とは無関係などうでもいい雑用が下へ下へと降りてくるんです。それが本当にイヤでした。 開業医になると一国一城の主です。なにしろ院長ですから。上司からのそういう理不尽な命令は一切なくなります。スカッとして気分は最高です。それから、勤務時間にケジメがあることも大学病院との違いです。うちのクリニックは17時30分に受付けを終了します。その時点で患者さんがいなければ、その日の仕事は終わりです。あとは自由時間ですから、これは天国かと思いました。