もはやインフレに”歯止め”がかからない事態…誰の思惑も通じないマーケットが描く「悲惨すぎる日本経済の行方」
利上げをしても未だ「金融緩和」
もう一つ、小幅の利上げなら、日銀は「金融緩和を継続」と言い訳できるという事情もあります。 先に触れましたが、景気を過熱させもせず、冷やしもしない金利の水準を「中立金利」といいます。FRBや日銀が決める金利が、この中立金利を上回っていれば、「金融引き締め」状況であり、逆に下回っていれば「金融緩和」ということ。 アメリカのFRBはFOMC(連邦公開市場委員会)のたびに中立金利を公表しています。6月のFOMCでは中立金利は2.75パーセント程度に上方修正されました。それでも、アメリカのFF金利誘導目標は5.25~5.5パーセントですから、アメリカは金融引き締めの状況にあるわけです。 日銀は中立金利を公表していませんが、アメリカよりは低いものの、いまの日本の金利よりは高い可能性があります。要するに、日銀が小幅の利上げをしても、中立金利より低ければ、「利上げはしたが、まだ金融緩和の水準」と言えるのです。 それを踏まえると、日銀が早期に利上げしてくる可能性もあります。タイミングとしては、早ければ7月から10月あたりになるかもしれません。 一方、アメリカの利下げは、あっても2024年後半以降ではないかと思います。一時は年内の利下げはないとする向きもありましたが、その後は経済指標の下振れが相次いでいますので、利下げの可能性が盛り返している格好です。ただ、さすがに年内に1~2回あるかどうかではないでしょうか。
インフレ目標が「2パーセントから3パーセント」に
エミン:日本の2年金利は2024年5月の時点でで0.3パーセントまで上がっていました。要するに、マーケットは日銀が年内1回くらいは利上げすると予想しているわけで、実際にその通り0.25パーセントに利上げしました。 日銀はマーケットにショックを与えたくないのかもしれない。ただ、マーケットのほうは日銀の都合など気にしていません。日銀の思惑とは逆に、植田総裁の失言を拾って円が暴落したり急に買われるのがマーケットというもの。よくも悪くも、中央銀行はそれを前提に金融政策の舵取りをしなければならない。 アメリカFRBのパウエル議長の話だって、マーケットはまともに聞いていないのです。パウエル氏はずっと「利上げはしないが、インフレが下がるまで利下げもしない」と言い続けていたのですが、マーケットは2023年の秋から勝手に利下げを想定していました。 そもそも、インフレ率の目標として「2パーセント」という数字が出回っていますが、実は明確な根拠があるわけではありません。それも踏まえて、インフレ率2パーセントに固執する必要はないかもしれない。 実際、欧米の当局者の発言でも、「インフレ率は2パーセントでなくていい」といった意見がちらほら見受けられます。2パーセントまで低下するのを待っていると、なかなか利下げできないし、そのうち本当に経済が崩壊してしまうわけです。 永濱:これまで「ちょうどいいインフレ率は2パーセント」とされてきましたが、アメリカの学者の中でも、インフレ目標を2パーセントから3パーセントに変更すべきだ、との意見も出てきていますよね。 仮にアメリカのインフレ目標が3パーセントになったらどうなるでしょうか。結論から言うと、日本にもさらにインフレ圧力がかかるでしょう。海外がインフレになると、日本が海外からモノを買う時の物価が上がるわけで、結局、日本国内の物価も押し上げられてしまいます。アメリカが「インフレ目標3パーセント」になれば、日本もインフレ圧力がかかるわけです。
永濱 利廣、エミン・ユルマズ