ザトウクジラは「泡」で「道具」をつくる、長年の謎が明らかに 「本当にすごい」と研究者
「非常に細かく制御しています」
こうした行動をより詳しく観察するために、サボ氏のチームは、米アラスカ南東部沖において、長さ約6メートルのポールを使って、特殊なタグをクジラに取り付けた。このタグは、4Kビデオカメラ、水中聴音器、3次元での動きや水温、深度を測定するセンサーを備えており、最長24時間データを収集した後、自動でクジラから外れるようになっている。 タグのデータと、ドローンで撮影された空からの映像とを組み合わせて、科学者らは、単独行動のクジラがバブルネットを作るタイミングと、その構造および大きさを正確に測定した。 その結果、気泡を放出する速度と間隔をザトウクジラが調整し、より効率的に獲物を捕らえようとしていることが明らかになったと論文にはある。気泡の円を調整すると、クジラが一口で捕らえられる獲物は、平均で7倍に増えるという。 ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるサボ氏によると、クジラは突進する回数を減らしてエネルギーを節約しているのだという。ザトウクジラにとって効率は非常に重要だ。なぜなら、彼らは何千キロもの距離を移動し、また一年を通して生き延びるために、夏から秋にかけてアラスカで十分な食料を確保する必要があるからだ。 「クジラはバブルネットを非常に細かく制御しています」と、論文の共著者で、米ハワイ大学マノア校で海洋哺乳類研究プログラムを指揮するラーズ・ベイダー氏は言う。「彼らはネットが小さくなるにつれて泡の放出頻度を上げ、獲物が逃げ出せる網目のサイズを小さくしています。本当にすごいです」 バブルネットを道具として使うザトウクジラの能力は、イルカをはじめとするその他の海洋哺乳類の陰に隠れがちな、クジラの認識力の高さと複雑さを物語っていると、研究チームは考えている。「彼らは驚くべき動物であり、驚くべきことをしているのです」とサボ氏は言う。
実は一般的ではないバブルネット、なぜ?
興味深いことに、クジラはバブルネットをずっと使っているわけではない。アラスカでは、バブルネットで餌をとる個体は全体の5~10%程度にとどまっている。「バブルネットを使うというのは、一般的な行動ではありません」とベイダー氏は言う。「これはすべての群れに当てはまります」 チームがタグを設置した3日間で、バブルネットでの摂餌に参加したことが確認されたクジラは70~80頭にのぼった。しかし、それからわずか1週間後には、同じ個体がすでにこの手法を使わなくなっていた。これはなぜなのだろうか? ザトウクジラがいつ、どこで気泡を使うのかは、獲物の密度と関係している可能性がある。「バブルネットを展開するには時間がかかります。ネットを使う必要がないほど獲物が密集している場合、使わない方がむしろうまくいくこともあるでしょう」とサボ氏は言う。 一方で、獲物の密度がそれほど高くない場合には、バブルネットを使うと、本来であれば手に入らなかった資源を利用できるようになる。「ネットを使えば、利益にならなかったものを餌という利益に変えられるのです」