世良公則「土を練っていると、雑念が消えて〈無〉になれる。陶芸の魅力にとりつかれ、15年。この世界ではまだ若造。立ち止まってなどいられない」
〈発売中の『婦人公論』10月号から記事を先出し!〉 ロックミュージシャンとしてシャウトする姿が印象深い世良公則さんは、作陶の魅力を知り、陶芸家としての活動を始めました。「和」文化への想いを熱く語ります(構成=村瀬素子 撮影=ANDU) 【写真】土に触れたいと思うと、昼夜問わず作陶を始めるという世良さん * * * * * * * ◆土と「性が合う」と褒められて 僕が陶芸に出会ったのは、50代半ばのこと。NHKの『趣味悠々』という番組で、やきものの里・岐阜県多治見市を訪れたのがきっかけです。番組のなかで、陶芸家の七代加藤幸兵衛(こうべえ)先生に手ほどきを受けたとき、土をこねる僕の手を見て、先生がおっしゃったのです。 「世良さんの手は、土と性(しょう)が合う」 その言葉に導かれ、やきもの作りにのめり込んでいきました。 作陶は、土を練って空気を押し出す「菊練り」という作業から始まります。土のかたまりを見つめながら一心不乱に練っていると、雑念が消えて「無」になる。初めて味わった瞬間から、土の魅力にとりつかれました。菊練りを覚えるのに1年かかると言われますが、僕は1ヵ月ほどでできるようになったかな。 ただ、幸兵衛先生にご指導いただいたのはこの菊練りまで。そこから先は、先生の作り方を見よう見まねで体得していくのです。作るだけでなく、僕は全国の窯や個展に足を運び、本や動画で調べて、自分なりのやり方を模索しました。 頻繁に窯元には行けないので、土や道具も自分で取り寄せ、当初は東京の事務所のベランダに作陶場を設置。夏は汗をダラダラ流し、冬はダウンジャケットを着て土と格闘していました。
陶器を作るには、土の状態を整え、ろくろで成形し、素焼きしたあと釉薬をつける、といった手順があります。どんな色に焼き上がるか想像しながら制作するのですが、最終的には窯に入れて炎に委ねるしかない。 そうして焼き上がった陶器は、想像を超えるものが出てくる。それが陶芸の面白さなんです。絶妙な色のグラデーションが生まれたり、緑色が全部飛んで真っ黒になったりすることもある。良くも悪くも一期一会。同じ器は二つと生まれません。 ありがたいことに、現在は多治見の幸兵衛先生のところにある、江戸時代から続く薪窯を使わせていただいています。 職人さんたちが交代で火の番をし、5日間かけて焼き上げる。僕も幸兵衛窯に行った際にはお手伝いしますが、1200度の窯に薪をくべるわけですから、真夏でも耐火性を備えた長袖・長ズボンを着て、手袋をし、頭にタオルを巻き、ゴーグルをして完全防備。 焼き上がって完成ではなく、窯から出したあとは、作品についた灰や石ころを落とし、やすりをかけて滑らかにしたりと、さらに作業が続きます。 土を練ってから、作品が完成するまでに半年以上。今は何でもデジタル化された、スピードの時代でしょ?陶芸は、ひとつひとつの工程を丁寧に行うことの大切さを教えてくれます。