世良公則「土を練っていると、雑念が消えて〈無〉になれる。陶芸の魅力にとりつかれ、15年。この世界ではまだ若造。立ち止まってなどいられない」
◆おもてなしは自作の碗でお点前を ロックミュージシャンの世良のイメージからすると、意外に思われるかもしれませんが、もともと僕は、和の文化が大好きなんですよ。 仕事柄、各地の日本料理店で食事をするのですが、器や床の間の掛け軸、香炉などにも目がいって。昔から、「このお皿、素敵ですね」と店主と話し込んだりしていました。たとえば器の色合いに合わせて料理の盛りつけを工夫する。そんなコラボレーションの魅力に、音楽にも通じるものを感じてきました。 僕の母の実家はお寺で、祖母は僧侶でした。子どもの頃、夏休みは寺で過ごし、廊下の雑巾がけや墓掃除をやらされて。それが僕の根っこにあるからか、静かで張りつめた、清らかな空気感が好きで、若い頃から仕事で地方に行くたび神社仏閣を散策していました。 祖母や母は茶道を嗜んでいたのでお抹茶にも親しみがあったし、四季折々の和菓子も昔から好きでしたね。仲間うちでは、僕の甘党は有名なんです。(笑) こうした日本文化の下地が僕の中にあったから、50代で陶芸の世界に没入したのも、自然な流れだと思います。 今、自宅や事務所で使っている器は、ほぼすべて僕の作品。事務所の玄関にショーケースがあり、自作の茶碗やぐい呑みなどがズラリと並んでいます。仕事仲間や友だちが来ると、まず今日使う茶碗を選んでもらってからリビングにお通しする。 スタッフが彼らと話している間に僕は抹茶を点て、和菓子と、それに合う小皿と敷物を見立ててお出しするのです。「この和菓子は春の小川のせせらぎをイメージしています」なんて話しながらね。そんな和のおもてなしが定番です。 僕は料理も作るんですよ。学生時代は一人暮らしで自炊していたのもあるけれど、30代の頃に、ミュージシャンとしての今後を見つめ直したことが大きいかな。健康な体で感性を磨いていくため、できるだけ外食はせず、自分で作るよう生活を変えたのです。僕の料理は和風だしをきかせた、あっさりしたものが多いですね。