【ライブレポート】宇多田ヒカル、最高の今にたどり着いた自身とファンの25年間を祝福「みんなおめでとう!」
宇多田ヒカルが9月1日に神奈川・Kアリーナ横浜で全国ツアー「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」の最終公演を開催。約2時間半のパフォーマンスで、本公演限定の楽曲を含む多彩なヒットナンバーを披露した。 【写真】あの黄色いソファに座る宇多田ヒカル ■ 6年ぶりのツアー、総動員数は 昨年12月9日にシングル「Automatic / time will tell」でのデビューから25周年を迎えた宇多田。これを記念したベストアルバム「SCIENCE FICTION」を今年4月にリリースし、全国ツアー「SCIENCE FICTION TOUR 2024」を7月から行ってきた。 宇多田にとって約6年ぶり4回目となる今回のツアーは、デビュー以来初となるアジア単独公演の台湾・香港公演を含む全9カ所18公演で、総動員数は過去最大規模の約25万8000人を記録。最終公演となるKアリーナ横浜公演は、台風の影響が危ぶまれたが、8月31日、9月1日の2日間にわたって無事開催され、約3万6000人のファンを集めた。 ■ ベストアルバムとは違う“ベストセットリスト” 開演時刻は黄昏時の16:30。会場が暗転すると、ピアノの音色とともにステージを照らし出したライトの中に宇多田が現れる。大歓声に包まれた彼女が1曲目に披露したのは、「時間がたてばわかる」と歌うデビューシングルの収録曲「time will tell」だ。ヘンリー・バウワーズ=ブロードベント(Key, G, Perc)、大森日向子(Key)、ベン・パーカー(G)、セイ・アデレカン(B)、アイザック・キジト(Dr)という凄腕のバンドメンバーを迎えた宇多田は、ライブならではのアレンジを効かせながら25年前の楽曲を今この瞬間によみがえらせていく。 続けて「Letters」を情感豊かに歌い上げた宇多田は「やっと会えたね! 今日はゆっくりしてって!」と呼びかけると、ステージを歩きながら「Wait & See ~リスク~」「In My Room」とベストアルバムには収録されていない初期のナンバーを歌唱。“25周年の活動をサポートしてくれたファンへの感謝を表したい”という意図で企画された今回のツアーでは、ベストアルバムとは趣を変えた“ベストセットリスト”が用意された。 人気曲「光(Re-Recording)」に続けて「For You」「DISTANCE (m-flo remix)」のメドレーを披露し、フロアのテンションを一気に引き上げた宇多田は、間髪いれずに☆Taku Takahashiと共同プロデュースした「traveling」の新録バージョンへ突入。客席にマイクを向けてシンガロングを促しつつ、ダンサブルなサウンドに乗ってセンターステージに移動する。会場に熱気があふれる中、上着を脱ぎ、マイクスタンドの前に立った宇多田が「涼しげなナンバーを」と歌い始めたのは、代表曲の1つである「First Love」。観客は目の前に確かに実在する宇多田の柔らかな歌声にじっと聴き入った。 宇多田は親しみを込めてファンに何度も話しかけながらライブを進行。途中オペラグラスを手にすると客席をじっくり鑑賞し、「見えた!」と声を上げる場面もあった。またライブ中盤、キュートな振り付きで「ぼくはくま」を歌って会場を和ませた宇多田は、続く「Keep Tryin'」ではハンドウェーブで会場に一体感を生み出し「煽ったりするの苦手だったんだけど、今すごく楽しくできてるのうれしい! ありがとう!」と笑顔を見せた。 ■ “待ち合わせ成功”したみんなの25年間 「誰かの願いが叶うころ」をエモーショナルに歌い上げて一旦退場した宇多田は、オリジナルキャラクターのくまちゃんが宇宙を旅して宇多田の脳内に戻ってくるまでを描いたSFチックなアニメーション映像を経て、アップテンポな「BADモード」でパフォーマンスを再開。舞台装置によりどんどんと上昇していく彼女が羽織っているカラフルなドレスは、人工構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン繊維」を採用したというスペシャルな衣装だ。 そしてライブも終盤に差しかかる中、宇多田は入手困難なチケットを手にして集まったファンに「“待ち合わせ成功”ってことでありがとう」と微笑みかけると、このツアーへの思いを語り始める。「自分が主役のパーティはちょっと苦手なタイプ」だという彼女は、「私じゃなくて、私も含めたみんなで一緒に歩んできた25年間を振り返ったり、お祝いしたり、お疲れ様って言えたらいいなと思って。だから、みんなが来てくれないとできなかった。集まれて、こうやって同じ気持ちになれてうれしい。ありがとう」とファンに感謝。「25年もあれば、いろんなことみんなあったと思うけど、楽しかったことも、よかったことも、イヤだったな、つらかったなって思うことも、全部同じくらい一歩ずつ自分をここに連れて来てくれたんだなと思ったら、悪くないな、いいじゃんって思えるようになって」とこれまでを振り返り、人生で得た学びを改めて言葉にしていく。 「望んだものが必ずしも自分にとっていいことだとは限らないし、望まなかったことがすごく自分を成長させてくれたり、何かを失ったりしても、失ったってことは与えられてたんだなって気付かされたり、失ったものはずっと心の一部になるって知ったり、与えられなかったものも自分をすごく豊かにしてくれたなってこともわかったし、与える喜びとか満たされる気持ちもわかった」と語った宇多田は、「私はすごくいい25年だったなと思うから、みんなもそうだといいなと思うし、これからの25年もいい時間になるといいなって思う」と総括。「とにかく今は最高ってことで、みんなおめでとう!」とこの場に集まった全員を祝福した。 ■ この日だけ披露された曲 もうすぐ夏も終わるが、実は夏が苦手だったという話題から「ライブを観に来てくれた人みんなが『今までで一番楽しそうにしてて、自然な感じでいいね』って言ってくれて。それがすごくうれしいし、本当に楽しいの。夏が好きになったかも!」とこの夏を駆け抜けたツアーを振り返り、「君に夢中」でライブ本編を終えた宇多田。アンコールでは、最終公演のみのゲストとしてダンスユニット・アオイツキとサックスプレイヤーのMELRAWを迎えて最新曲「Electricity」をパフォーマンスし、その世界観にファンを没入させる。 さらに本公演限定で用意した楽曲があると明かして来場者を喜ばせた彼女が「もうちょっと付き合ってもらえるかな?」と歌い始めたのは「Stay Gold」。「大好きだから ずっと なんにも心配いらないわ」と変わらぬ思いをファンに語りかけるように歌った。観客が感慨にひたる中、最後に披露されたのは、宇多田の名を世に知らしめたデビュー曲「Automatic」だ。暗転する会場におなじみのイントロが響くと、観客の目の前には、あのミュージックビデオを彷彿とさせる黄色いソファに座った宇多田の姿が。アグレッシブな演奏を繰り広げるバンドメンバーとともに会場の盛り上がりを最高潮に導いた彼女は、何度も何度も深く頭を下げ、ともに歩んできたファンへの感謝を示した。 なお本公演の模様は、11月10日16:30からU-NEXTで放送される予定。12月11日にはライブBlu-rayが発売されることも明らかになった。 ■ セットリスト □ 「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」2024年9月1日 Kアリーナ横浜 01 time will tell 02. Letters 03. Wait & See ~リスク~ 04. In My Room 05. 光 (Re-Recording) 06. For You ~ DISTANCE(m-flo remix)メドレー 07. traveling(Re-Recording) 08. First Love 09. Beautiful World 10. COLORS 11. ぼくはくま 12. Keep Tryin' 13. Kiss & Cry 14. 誰かの願いが叶うころ 15. BADモード 16. あなた 17. 花束を君に 18. 何色でもない花 19. One Last Kiss 20. 君に夢中 <アンコール> 21. Electricity 22. Stay Gold 23. Automatic