ノーベル平和賞を受けてSDGs「ゴール16」を改めて考える
記事のポイント①2024年の「ノーベル平和賞」に、日本原水爆被害者団体協議会が決まった②今回の受賞で米国のバイデン大統領ほか、国内外から祝意が寄せられた③ただ、日本の経済界はやや静か。経営者はもっと平和を語ってよい
ノルウェーのノーベル賞委員会は10月11日、2024年の「ノーベル平和賞」を日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与すると発表しました。日本の平和賞受賞は1974年の佐藤栄作元首相以来、50年ぶりです。この受賞を機に、国内外では改めて核廃絶や平和実現の議論が高まっていますが、日本の経済界はやや静かなようです。核廃絶は手段であり、共通の目的は「平和」です。日本の経営者やビジネスパーソンは、今まで以上に平和を訴えても良いのではないでしょうか。(オルタナ編集長・森 摂) SDGs(持続可能な開発目標)には、17のゴールのうち、「平和」を盛り込んだ目標(ゴール)があります。それは「ゴール16」です。具体的には「持続可能な開発のための『平和で』包摂的な社会を促進し、(中略)、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」としています。 そして目標を実現するためのターゲットにおいては、「16.1」で「あらゆる場所において、すべての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる」と定めました。これが「核廃絶」にも通じます。 ところが、日本企業がそのマテリアリティ(重要課題)の特定において、SDGsの「ゴール16」を掲げる事例は少ないようです。事例としては、リコーグループや大同特殊鋼などがあります。 リコーグループは、経営基盤を強化するための「責任あるビジネスプロセスの構築」の一環で、ゴール16を重要視しています。同社は「サプライチェーン全体を俯瞰してビジネスプロセスのESGリスク最小化を図り、ステークホルダーの信頼を獲得する」としています。 大同特殊鋼は経営のマテリアリティを策定するなかで、ガバナンスの強化の一環として、SDGsのゴール16を関連付けました。 ESG推進統括部サステナビリティ推進室の岩田学主席部員は「当社は海外との取り引きもあり、サプライチェーンの管理に力を入れています。課題はあるものの、トレーサビリティ(追跡可能性)を確保することは『平和と公正』に寄与すると考えています」と説明します。 三井不動産は、ゴール16を達成するために、サプライチェーン上の人権問題に取り組んでいます。同社広報部広報グループの藤巻麻美氏は「SDGsのゴール16を踏まえ、サプライチェーンを含む人権課題に取り組むことによって、公正な社会の実現に貢献したい」と話しました。 セコムは、セキュリティ事業を行う企業として、法令およびその精神の遵守を全社員に徹底させる努力を続けるプロセスが、「平和と公正」につながると考え、ゴール16と関連付けているとしています。 東急不動産は、同社のガバナンスの方向性として「説明責任と透明性」「汚職や贈賄の防止」が、ゴール16と合致すると答えました。 20年近く前のことですが、経済同友会は2005 年 2 月、「世界における日本の使命を考える委員会」を立ち上げました。その中で、「日本には伝統的に全体としての繁栄を尊ぶ共生と和の心が根付いており、更に唯一の被爆国として、世界に対して平和の重要性を訴える義務があり、使命がある」と力強く提言をしました。 ただ、「平和」とは抽象的な表現であり、総論賛成・各論反対の「総論」になりかねません。だからこそ、今回ノーベル平和賞を受ける日本被団協のような個別具体的な活動に対して、国内の経営者やビジネスパーソンによる力強い応援が求められます。 戦後しばらくは経営者も戦前世代が多く、中には召集され、戦地で戦った人も多かったと聞きます。だからこそ、平和を希求する姿勢は今よりもずっと強く、経営者たちも臆することなく、平和や核廃絶を口にしていたと聞きます。 その中で、常に平和を訴えかける言動を絶やさなかったのが、イオンの岡田卓也名誉会長です。筆者は10年前に、2時間にわたるインタビューをさせて頂きました。その中でも「私たち小売業は、世の中が平和だからこそできる。だから平和が大事なのです」と話されていました。岡田さんからは『小売業の繁栄は平和の象徴』(日本経済出版社)という本を頂きました。 ■岡田卓也氏はなぜ木を植え続けるのか――イオン名誉会長と2時間独占インタビュー https://www.alterna.co.jp/12580/ いまや終戦から79年が経ち、経営者自身も「戦後生まれ」がほとんどです。「戦争を知らない」世代です。だからこそ、戦争や原爆の悲惨さを後の世代に語り継いでいかなければなりません。今回の被団協ノーベル賞受賞では、そんなことを考えさせられました。