人工肛門ってどういうもの? いまだ進まない「排泄障害」への理解
フリーアナウンサーの中井美穂さんがテレビ番組で病気治療のため、一時、人工肛門での生活をしていたことを告白し、注目を集めている。特に人工肛門・ぼうこうを持ちながら、仕事や学業に励む世代は「排せつ障害」への社会の理解がなかなか進まない現実に深い悩みを抱えている。現役世代の声を聞いた。
1回のトイレに20~40分、周囲のみんなに言えたらどんなに楽か
声優の真山亜子さん(57)は42歳のとき、クローン病の悪化により手術を受け、排泄のための「ストーマ」(排泄孔)を設けた。手術後数年間はとにかく苦労の連続だった。 映画の吹き替えなど、長時間の仕事のときに最も緊張した。仕事先でストーマから漏れてしまい、応急処置を求めた病院では断られ、自分でテープや脱脂綿を使って何とかしのいだこともあった。 いまも人工肛門について、あまりにも理解がない現実にぶつかることが多い。例えば、観劇ホールで、休憩時間に、どうしても緊急に対応しなくてはならず、トイレに並ぶ列を通り越して、オストメイト用を使った際には、「みんな並んでいるのに」と不満をぶつけられた。 「実情をわかってもらえれば、こういうことは減ると思うのですが……」 関西地方の契約社員の女性(30)は「周りの反応が怖くて話せない」と打ち明ける。 10代後半に発覚した難病、慢性特発性仮性腸閉塞症(CIIPS※)により、2011年、大腸を部分切除するなどの緊急手術を受け、現在、2カ所にストーマがある。手術直後は、人工肛門を持ったことへのショックが冷めないなか、長期療養を理由に勤務先から解雇され、「精神的に打ちのめされた」。家族に支えられて治療やリハビリに励み、現在の仕事に就けたのは約2年後のことだ。 現在の職場では上司も含め、2、3人にしか人工肛門について打ち明けていない。トイレには、1時間に一度行き、短くても20分、腸の動きが悪いときには、お腹をマッサージして、40分くらいかかる。 「周囲のみんなに言えたら、どんなに楽だと思う。でも、もし好奇の目にさらされたらと思うと、怖くて耐えられない」 結婚したり、仕事にまい進したりする友人たちを見ると、「私はみんなと違うんだ」と、ぽつんと一人、取り残された気持ちになる。「もっと人工肛門への理解が広まったら、自分も打ち明ける勇気が出て、一歩踏み出せるかも」 ※CIIPS=消化管の運動機能障害のため、腹部の膨張や嘔吐、激しい腹痛など腸閉塞のような症状を示す原因不明の難病。点滴による静脈からの栄養摂取など栄養療法を続ける患者も多い。