ちょん髷の新小結・大の里の初優勝か?最大4力士での優勝決定戦で、大銀杏の貫禄を示せるのか?
5月12日、東京・両国国技館で始まった夏場所もいよいよ千秋楽。「荒れる春場所」のあと、今場所はどうなるのか。『婦人公論』愛読者で相撲をこよなく愛する「しろぼしマーサ」が今場所もテレビ観戦記を綴ります。 * * * * * * * ◆大混戦の大相撲夏場所 大相撲夏場所は大混乱と大混戦のうちに14日目を終え、3敗で単独トップは、昨年夏場所に幕下10枚目格付出しでデビューし、もう新小結の大の里である。 4敗は大関5場所目の豊昇龍、大関2場所目の琴櫻、関脇・阿炎、前頭筆頭・大栄翔の4人。この4人のうち琴櫻だけが優勝の経験がない。 千秋楽で大の里は阿炎と対戦し、勝てば初優勝となる。 大の里が負ければ、大関同士の対戦で豊昇龍か琴櫻のどちらか勝った方と阿炎との巴戦、または大栄翔が前頭8枚目・琴勝峰に勝てば、大栄翔も優勝争いに加わり、最大4人でのややこしい優勝決定戦となる。 大の里は先場所、ざんばら髪で優勝争いに参加。結果は新入幕の尊富士が優勝し、「110年ぶりの新入幕優勝」、出世が早くて大銀杏が結えず「ちょん髷での優勝」が話題を呼んだ。大の里は今場所ちょん髷が結えたが、優勝となると、2場所続けてのちょん髷の力士の優勝となり、十両以上の力士のシンボルである大銀杏の権威は悲しいものになる。 中日を過ぎて、NHKテレビの正面解説の親方に実況のアナウンサーが優勝のゆくへをたずねたが、強いと思えた力士に安定感がなくて、親方たちも予想ができない。 しかも、1横綱、4大関、2関脇、2小結の9人のうち10日目まで5人が休場。11日目を終えて2敗でトップに立ったのは前頭10枚目・湘南乃海ひとり、3敗が6人。ところが12日目に湘南乃海が阿炎に敗れ、3敗4人に4敗7人となった。
◆芝田山親方が解説に出ると思い出してしまうこと 足の指を怪我して途中休場してから途中出場するというあわただしい日々だった関脇・若元春は、13日目に新入幕で3敗の前頭14枚目・欧勝馬と対戦した。若元春が押し出しで上位の強さを見せた。正面解説の芝田山親方(元横綱・大乃国)は、「新しい人が終盤に残っているが、大相撲としての地位、格をしっかり守っていただきたい」と説教のように話していた。大乃国は昭和63年九州場所の千秋楽で横綱・千代の富士の連勝記録を53で止めている。しかし、横綱として期待されながら、怪我などで苦労して28歳で引退した。番付の重さを知る芝田山親方ならではの言葉である。 芝田山親方が解説に出ると思い出してしまうことがある。 私は30代の時、腰痛で都内の大学病院に行き、腰周辺のレントゲン撮影をした。今は、画像データが医師のパソコンへ送られるが、当時は患者がレントゲン写真を持って医師のところに届けた。私は自分の骨の状態を医師より先にじっくり見たくて、整形外科のない1階のトイレでレントゲン写真を見た。そこには黒い渦のような塊が映っていた。私は腫瘍だと思い、絶望的な暗い気持ちになった。下を向いたまま、エレベーターに乗り込んだ。やけに混んでいて、背後からの圧迫感が凄かった。後ろからの「降ります」の声で、私を含めた前の人は後ろにいる人のためにエレベーターの外に出て道を開けた。後ろから出てきたのは、大乃国だった。 廊下の人たちから「大乃国だ!」の声が上がり、「本場所が近いぞ、大丈夫か!」の声もあった。私は、診察する時に医師の横にある狭いベッドに大乃国はどうやって寝るのかと、その困難さを思ったとたんに、なぜか自分のレントゲン写真の黒い渦のことを医師に聞く勇気を得た。私はレントゲン写真を医師に渡してたずねた。医師の返事は、「腰はたいしたことないね。湿布でも貼っておきなさい。この黒い渦はね、お腹にたまったガスです。人のいないところでガスを出して帰りなさい」だった。 大乃国のお腹は、大相撲では武器にもなる肉だが、私のお腹の張りは人前では披露できないガスだったのである。
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