41億円が水の泡…なぜ住之江GP優勝戦で4艇転覆のボートレース史上最悪の大返還が起きたのか?
レース後のピットは“お通夜”のように静まりかえったのは言うまでもない。大惨事の原因をつくり、妨害失格となった峰は、「油断したわけではない。瓜生さんがうまかった。ターンマークにぶつかる前にまくられていました。大勢の人に迷惑を掛け、申し訳ないです」と顔色をなくし、平身低頭。何度も頭を下げ、「申し訳ない」を繰り返した。 峰は、実力と人気を兼ね備えた“最強レーサー”だ。昨年は、約2億5000万円を稼ぎ、賞金王とともに各賞を総なめにして、このグランプリにも勝った。 36回目を迎えたグランプリは、賞金1億円がかかるボート界の1年の総決戦とも言える特別なレースである。賞金ランクの上位18選手だけしか出場できない。そこに今年も峰は、賞金ランク1位(約1億5700万円)で乗り込み、予選をトップ通過。決勝でもボートレースで圧倒的に有利な1号艇をつかみ、連覇に向けてのシナリオに狂いはなかった。断然の人気になるのは当然だったが、そこにまさかの悪夢が待ち受けていたのである。 なぜ大波乱が起きたのか。 予兆はあった。 ボートレースは、進入と呼ばれるスタートのコース取りの争いから駆け引きが始まる。通常は、枠順通りの“枠なり”で1号、2号、3号艇がスロー(前の位置)、4号、5号、6号艇がダッシュ(後ろの位置)と順番に並ぶのであるが、最内を回る1号艇が、断然有利のため、時折、ひとつでも内側のスタート位置を取ろうと“前付け”と呼ばれる積極策に出る選手が出てきて番狂わせを起こす。この日は、5号艇の白井が、その進入で動いた。 ボートレースは、締め切り前にスタート展示と呼ばれるリハーサルを直前に行い、ファンに、どんな進入になるのか、エンジンの調子はどうなのか、などを紹介しタイムなどの詳細データも出る。競馬のパドックのようなものだが、そこで白井は“前付け”を敢行していた。 そして本番でも動き、「思い切っていく自信がなかったのでコースは譲らないつもりでいた」という4号艇の瓜生は、内側のコースに入れさせまいと必死に抵抗した。 しかし、3号艇の“クセモノ”の平本が外に出してのダッシュを選択。進入隊形は、意外にも1号、2号、4号、5号艇がスロー、3号、6号艇がダッシュの4対2の隊形になったのである。1コースの峰の進入は130メートルラインを割るくらいに前の位置からのスタートとなり、その心理に微妙な影響を与える。住之江のスタンドからは、ざわめきが起こった。