「このままでは患者を殺すことになる」相次いでいた人工呼吸器のトラブル、なぜ日本ではリスクが軽視されるのか(後編)
人工呼吸器が「命綱」の患者はどうとらえたか
そこで、人工呼吸器を使っている患者への取材を日本ALS協会(東京都千代田区)にお願いしたところ、広島市内の男性が快く取材に応じてくれた。歯科医師の三保浩一郎さん(57歳)だ。 東京・九段下にある協会の事務所と三保さんの自宅をWEB会議方式でつなぎ、パソコン画面越しに東京から話をうかがった。三保さんは目の動きでマウスを操作し、画面に言葉を表示させる「視線入力」の方法で答えてくれた。 柔道が大好きなスポーツマンだったという三保さんが、運動神経系の機能が少しずつ失われていく筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症したのは2010年のことだった。ALSとは手足やのど、舌の筋肉が次第に衰え、呼吸に必要な筋肉もやせていく進行性の病気だ。日本ALS協会によると、患者は軽症の人を含め全国で1万2000人前後。その3割ほどが人工呼吸器をつけて暮らしているという。 三保さんも2016年から、フィリップス製の人工呼吸器トリロジー100plusを使い始めた。2021年の大規模リコールで自主回収の対象となった呼吸器だ。そのときはフィリップス・ジャパンの担当者から経緯の説明があり、改修器に交換されたという。 しかし、その改修器に取り付けたシリコーン製の防音材に今度は「フォーム剥がれ」のリスクが発覚していたことについては、何の連絡も受けていなかった。この問題が日本ではクラスⅡとなっていたことについて意見を求めると、「それはおかしい」という直球の言葉が返ってきた。その理由は「人工呼吸器は命に直結しているから」だ。 隣にいた妻(54歳)も、2度目のリコールについては「何も聞いていなかった」として驚きを隠さなかった。たんの吸引などは支援のヘルパーも含め研修を受けているが、呼吸器が突然故障したり、アラームが鳴ったりした場合にすぐに対応できるかと問われると、「私もヘルパーさんも想定外すぎて、すぐには対応できないと思う」と答えた。「近くに人がいないこともありうる」と三保さん。幸い、窒息などのトラブルはなく、2度目の器具交換が無事終了していた。 現在配信中のスローニュースでは、フィリップス・ジャパンがどのように対応していたのかを複数の元社員の証言で明らかにしています。さらに国の対応にも問題があることが浮かび上がります。 取材・撮影 萩 一晶(はぎ・かずあき) フリーランス記者。1986年から全国紙記者として徳島、神戸、大阪社会部、東京外報部、オピニオン編集部などで働く。サンパウロとロサンゼルスにも駐在。2021年、フリーに。単著に『ホセ・ムヒカ 日本人に伝えたい本当のメッセージ』(朝日新書)、共著に『海を渡る赤ちゃん』(朝日新聞社)など。健康被害などフィリップス関連の情報は、cpap2023j@gmail.comまでお寄せください。
萩一晶