「このままでは患者を殺すことになる」相次いでいた人工呼吸器のトラブル、なぜ日本ではリスクが軽視されるのか(後編)
日本の販売元が説明した、米社とは真逆の「理由」
トラブルの原因は、大規模リコールを引き起こした防音材の旧素材に換えて、2022年春に新しく採用したシリコーン製の防音材にあった。接着不良から空気回路の中で剥がれてしまい、空気の流れを塞いでしまうトラブルが相次いで発生。「フォーム剥がれ」と呼ばれるこの問題が起きた場合、異常を感知した呼吸器では「回路リーク低下」「吸気圧下限」「分時換気量下限」など5種類のアラームが鳴る可能性があった。 この緊急事態を受け、米フィリップスは「アラームに気付かないとか、すぐに対応できない場合には、窒息や低換気状態、低酸素血症といった、生命をも脅かす呼吸トラブルに患者が直面する可能性がある」と発表。FDAもこのリコールをクラスⅠに分類した。 しかし、フィリップス・ジャパンは今回もまた「重篤な健康被害につながるおそれはないと判断しております」と東京都に説明し、クラスⅡとして報告。都も「国とも相談のうえ妥当だと判断した」(薬事監視担当課長)として、そのまま受け入れていた。その結果、クラスⅠだと開かれたはずの記者会見はなくなり、2023年2月から1年半以上に及ぶ自主回収がひっそりと始まっていたのだ。
では、フィリップス・ジャパンは今回、米フィリップスと違って健康被害のおそれが「ない」と判断した理由を、都や国にどう説明していたのか。厚生労働省が管轄する医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページには、同社による次のような説明が記されている。 言い分をまとめると、こうなる。 ① 空気の圧力が低下すればアラームが鳴る ② 添付文書には、非常事態に備えてモニター装置を併用し、手動式人工呼吸器など代替手段を備えるよう記載されている ③ 問題が発生しても、医療従事者や介護者による代替手段での対応が可能だ つまり、医療機器そのもののリスクを判断するのではなく、「トラブルが発生してもアラームが鳴り、手動式の人工呼吸器などが備わっていて、まわりの介護者がすぐに対応してくれる」という三つの条件が揃っていることを大前提に、まわりの状況とのセットで健康被害のおそれは「ない」と言い切っていたわけだ。 これは、製造元の米フィリップスが「アラームに気付かないとか、すぐに対応できない場合」には、患者が重大なトラブルに直面する可能性がある、としたのとは真逆の説明だ。 東京都も国も「妥当」と判断したこの日本側の説明。果たして、人工呼吸器を頼りに命をつないでいる在宅患者の生活実態を踏まえたものなのだろうか。