ギロチンに加え、大砲まで使って2500人以上を処刑…ロベスピエールはなぜ恐怖政治の代名詞になったのか(レビュー)
高山裕二・明治大学准教授の新刊『ロベスピエール――民主主義を信じた「独裁者」』が刊行され注目を集めている。 ロベスピエールといえば、フランス革命において、人民の圧倒的な支持を背景に独裁政治を行い、政敵を次々と粛清、最後は自らも断頭台で葬られた政治家だ。 本書では、「私は人民の一員である」と言い続けた勤勉実直な元祖〈ポピュリスト〉が、なぜ冷酷非道な〈暴君〉に堕したのかが、詳しく論じられている。 音声プラットフォーム「Voicy」の書評チャンネル「神網(ジンネット)読書人」で、面白い本をいち早くピックアップする「週刊読書人」編集長・明石健五さんの解説をテキストに編集して紹介する。
真面目で清廉だったロベスピエール
本書を読むポイントは3つあります。 ポイントの1つ目は、本書に数多く引用されているロベスピエールの演説の言葉を噛みしめて、熟読、味読していただきたいということです。 ロベスピエールというと、皆さん、何を思い浮かべますか。おそらく、本書のサブタイトルにもなっている、「独裁者」という言葉ではないでしょうか。あるいは「恐怖政治」を断行した政治家としても、つとに名が通っています。 類まれな指導者ではあったけれども、どちらかといえば「負」の部分にスポットが当てられ語られることが多い、それこそ革命のためなら人命を惜しむことなく、政敵を次々とギロチン台の上に乗せた人物、というイメージがありませんか。 けれども、本書に掲載された彼の言葉をよく読んでみると、本当に真面目で、清廉の人であることが、よくわかります。 たとえば、革命派の拠点となったジャコバン・クラブの会長だった頃――と言ってもまだ32歳の若さですが――次のような言葉を残しています。 「人間性、正義、道徳。これこそ政治であり、立法者の叡知である。それ以外のものはすべて偏見、無知、陰謀、悪意でしかない。これら有害な先入観の信奉者は、人民を中傷し己の支配者を冒涜するのをやめよ。……不正義で汚れているのはあなた方である。……善良で我慢強く寛大なのは人民なのだ。われわれの革命、その敵の犯罪が、そのことを証明しているではないか」(79頁) 同じ頃に語った言葉をもうひとつ紹介しましょう。 「かつてなく世界を揺り動かす偉大な出来事の渦中にあって、私はある役割を担うことを運命づけられている。専制の断末魔と真の主権の目覚めを目にして……私は自分に責任を負わなければならず、同胞市民に対してもやがて私の思想や行動に対して弁明する責任を負わなければならなくなるだろう。あなたの手本が私の目の前にはある。あなたの感嘆すべき『告白』。この上なく純粋な魂のこの素直で大胆な発露は、芸術のモデルというよりも美徳の奇跡として後世に残るだろう」(92頁) ここで、「あなた」と呼ばれているのは、フランスの有名な思想家、ジャン=ジャック・ルソーのことで、『告白』はその代表作です。 このように本書では、ルソーからロベスピエールへの影響について各所で語られていますが、著者である高山さんは、「「清廉の人」は革命の渦中でルソーを通じて、民衆の「善良さ」を再発見する使命を再認識したのではないか」と述べています。