ギロチンに加え、大砲まで使って2500人以上を処刑…ロベスピエールはなぜ恐怖政治の代名詞になったのか(レビュー)
キューバの革命家、チェ・ゲバラとの類似点
さらに33歳の時の言葉を引用します。 「ある階級が何百万の人びとの栄養を奪うような国に美徳や名誉があるだろうか。大きな富は、それを持つと同時に羨む人びとを堕落させる過剰な贅沢と快楽を生む。そのとき、美徳は軽んじられ富だけが名誉になる。(中略)〔そうして〕人は権利の観念を失い、己の尊厳の感情を失った」(146頁) どうでしょうか。何か心に迫ってくるものがありませんか。 こうした言葉が、本書には、本当に数多く収められています。ひとつひとつの言葉に信念があり、強さがあります。人民に対して優しいまなざしを向け、思いやりに溢れる革命家の姿が浮かび上がってきます。 上に引用した演説の中に、「美徳」という言葉が2回ほど出てきましたが、この言葉がロベスピエールを理解するひとつのキーワードとなります。 ロベスピエールの行動原理には、美しさと徳が兼ね備わっていました。どこかロマンチストの側面も垣間見せ、ルソーからの影響を強く受けているためか、「文学者」としての素質も強く感じさせます。 その点で、私が連想したのは、キューバ革命の立役者である、チェ・ゲバラです。チェもまた名文家であり、文学をこよなく愛するロマンチストだったといいます。ふたりとも、40歳前に亡くなっていることも共通しています。
サン=ジュストが果たした役割とは?
それでは、なぜこのロマンチストであり清廉なる人物が、冷酷な「独裁者」となり、恐怖政治の代名詞と呼ばれるまでにいたったのか、これがポイントの2つ目です。 本書は、1758年のロベスピエールの生誕から、1974年の「テルミドールのクーデタ」で処刑されるまでを、「革命の幕開け」「共和国の誕生」「恐怖政治の時代」「独裁者の最期」という4部構成で、つぶさに辿っていく「物語」です。 今、「物語」という言葉を使いましたが、この間の歴史はまさに物語を読んでいるように、時々刻々と進行していきます。あたかも「群像劇」のごとく、どの登場人物も人間らしい欲望を持ち、あるいは崇高な理想を持ち、彼ら・彼女らがぶつかり合い、影響し合い、化学反応を起こし、革命が成し遂げられていく。 革命という大事業は、決してひとりの手でなるものではありません。フランス革命は、教科書通りに理解すれば、1789年のバスティーユ牢獄襲撃事件をきっかけにはじまり、1799年のナポレオンの軍事独裁により終結する、足掛け10年にわたる歴史的事件です。 その間、パリだけでも、2500人以上の人たちがギロチンで処刑され、ある時には、それでは間に合わないため、処刑に大砲が使用されました。その背後では、非常に陳腐な言葉になってしまいますが、まさに手に汗握る人間ドラマが繰り広げられるわけです。 もちろん、ロベスピエールはその中心人物として、強い信念をもって、革命を牽引していきます。他にもミラボー、マラ、ダントンなど魅力的な人物が次々と登場しますが、中でも注目していただきたい人物がサン=ジュストです。 サン=ジュストは「恐怖政治の大天使」と呼ばれ、ロベスピエールと共に処刑された青年革命家。この人物がいかなる役割を果たしたのかが、本書の重要な読みどころの一つとなっています。ぜひ本書をあたっていただければと思います。