無名芸人なすび「私は馬鹿になることを決めました」…裸一つ、懸賞だけで生き延びた1年2か月
これ以降、乾パンの支給はなくなった。食べ物が途絶えた時は、ドッグフードを口にして飢えをしのいだ。「トントン」。玄関をノックする音がすると、胸が高鳴る。当選品で一番うれしかったのがコメ。狂喜乱舞する姿は「当選の舞」と名付けられた。
「笑わせようとなんて一切思っていない。太古の昔から、人間は生きられる喜びを実感すると、歌い、踊る。感情が爆発すると、自然とそうなるんですよ」
本名は浜津智明。福島県警の警察官の父と専業主婦の母の間に、長男として生まれた。まじめで勉強ができた。物心ついた頃から自分の細長い顔が、嫌いだった。
小学校の頃のあだ名は、漫画「キン肉マン」に登場する顔の長いキャラクター「ラーメンマン」。からかわれ、仲間外れにされた。ある日、大好きなお笑い番組を見ていてひらめいた。
「バカなことをやれば状況が変わるかも」。休み時間、志村けんさんのギャグ「アイーン」を披露した。面白いやつだと思われ、徐々に友達が増えた。
父親の異動で小学校だけで2回転校した。いじめられ、笑わせて仲良くなるという繰り返し。「人を楽しませれば、周りも自分も幸せになれる」と考えるようになった。
高校卒業時、両親に「芸能界を目指したい」と打ち明けた。憧れは渥美清さんのような喜劇俳優。大反対され、東京の専修大に進学した。諦めきれず、隠れてお笑いのオーディションを受け続けた。
「お前、すげえ顔しているな」。ほかの参加者から口々に言われた。幼い頃からコンプレックスだった長さ30センチほどの顔が、武器になると知った。アルバイト先で顔の形が「なすび」に似ていると言われ、名乗り始めた。
ある日、芸能活動をしていることが親にばれる。母親は大学卒業までの活動を認めてくれたが、条件を出された。「裸でテレビに出ない」。だから、懸賞生活で服を脱ぐよう命じられた瞬間、真っ先に母親の顔が頭をよぎった。
一番つらかったのは
外部と遮断された生活。自分の姿がお茶の間に流れ、20%超の高視聴率を連発しているなんて知らなかった。週刊誌に居場所がばれ、引っ越しを余儀なくされた時も、スタッフの「運気を変えるため」という言葉を信じた。