フランス年金問題「62歳→64歳」に国民怒りのスト。若者が「高学歴で高収入の政治家」に猛抗議するワケ
◆迷惑なストライキも受け入れるフランス国民
日常生活が滞るほどのストライキに、フランス人は何を思うのでしょうか。 在住者である筆者が一番驚いたのは、デモやストの規模ではありません。フランス人たちが「彼らにも声を上げる権利がある」と、ストライキを当然のこととして受け入れる姿です。子どもの頃から慣れているとはいえ、不満を口にせず淡々と歩いている彼らを見ると、「フランスはまさに人権の国だ」と改めて感じます。 「お客さまに迷惑がかかる」という日本人の心情とは逆に、「迷惑をかけることで固い意志を示す」フランス人。今回の年金改革は、その決意が過去で最も固かったと言えるでしょう。
◆年金問題に若者も黙ってはいない
ところがフランス政府は、2023年3月に年金改革の法案を強硬採択してしまいます。そのとき用いられた方法は、フランスでも悪名高い「憲法49条3項」。これは、議会の採決を経ずに法案を成立させることができる憲法で、過去には1993年の財政法案や、公的企業の民営化など重要な法案が採択されてきました。 この強行突破がフランス国民の怒りに火を付けたのは言うまでもありません。「民意を踏みにじった」として、フランス全土で100万人規模のデモが行われる事態へと発展したのです(労働組合の発表では250万人)。 当時、フランス人の憤りには本当にすさまじいものがありました。デモが行われたパリの「レピュブリック広場」では、学校の教師や病院の看護師、弁護士、会社員といったありとあらゆる社会人が参加。しかしそこで筆者が目にしたのは、年金問題が身近ではない若者たち、つまりフランスの学生たちが声高らかに抗議する姿です。 コロナ禍から悪化する就職難、住宅難、いまだにはびこる学歴社会と、自らの将来に不安を感じる若者たちは年金問題をきっかけとして、怒りの矛先をマクロン政権そのものに向けました。「高学歴で高収入の政治家に俺らの何が分かる」と、10~20代の学生たちが街頭で大声を上げていたのです。そして抗議は、X(旧Twitter)やTikTokといったSNS上でも止まることがありませんでした。