ネットフリックスの“おすすめ”に、なぜ人はつられてしまうのか? ビッグデータが刺激する消費者の潜在意識とは
アマゾンなどの通販サイト以外にも、ネットフリックスやYouTubeなどの動画視聴サイトでも、ユーザーの好みに合ったコンテンツを自動で紹介してくれる。紹介されると、ついつい動画を見てしまう人も多いだろう。 特に、YouTubeは有料プランにして広告が表示されないように設定(オプト・アウト、選択を拒否する意味)しないと、様々な製品やサービスの広告が動画の合間に流れる。気になった広告をクリックして、思わず商品を購入してしまう人もいるだろう。背後にあるのは、ネット利用増に伴って重要性が高まるビッグデータの存在だ。 ビッグデータは、人々が自分では十分に把握できない潜在意識の世界を表している。IT先端企業はAIにビッグデータを学習させ、個々の検索結果、購入ヒストリーなどから得られる特定のキーワードなどを元に、心に刺さるモノやコトを“おすすめ”する。 おすすめされると、人々の脳の中では通販や動画などのサイトで得た満足感を思い出し、その満足感を再び味わうために、おすすめされたモノを手に入れたい、おすすめされたコンテンツを楽しみたいという欲求が高まるのである。 ■ ハーディング現象が起きるランキング表示 ――みんなが買っている商品は、自分も買いたくなってしまう心理 物事の順位付け=ランキングも、私たちの意思決定に影響している。日常生活の中で、ランキングを目にするケースは非常に多い。国内外のニュースサイトでも、必ずといっていいほどアクセスされた記事、コラムなどのアクセス数ランキングを表示している。 ランキングの期間も、過去1時間、24時間、1週間、3カ月、ここ1年間で最も読まれた記事のランキングを詳細に示しているサイトもある。このランキングがあることで、私たちは社会の平均的な関心が何であるかを理解しやすくなった。
ある経済の専門家は、「講演などで聴衆の関心をつかむために、米国のIT企業が運営しているトレンド確認機能を活用し、人々の関心が何か、どこに向かっているかを常に確認するようになった」と話していた。 ランキングは、モノやサービスの需要増加にも影響する。ランキング上位の商品(情報)は、やはり人気が高く、人々の需要が旺盛であることを意味する。人気が高いと、身の回りの多くの人が使っている、あるいは知っている可能性も高い。 実際に、人気の商品を使っている人を見ると、安心感を抱き自分も使ってみたいと思ってしまう。ランキングを示すことは、選択しやすい環境を作るだけでなく、行動経済学の理論にある“群集心理”(ハーディング現象)を刺激し、消費やクリックなどの意思決定を促すと考えられる。 ハーディング現象とは、1人ではなく、群れを成すことに安心するという心の働きをいう。羊の群れをイメージするとわかりやすいだろう。羊の群れが、道を歩いている。今、その群れはYの字の形をした分岐点に差し掛かった。 首にベルを付けた先頭の羊は、おもむろに左の道を選んだ。すると、先頭の羊を追いかけるように、群れ全体が左の道を進む。それがハーディング現象のイメージだ。私たち人間も、みんながやっていること、持っているものを見ると、無意識のうちにみんなの行動を真似したくなる。自分だけ取り残されると、孤独感を感じるからだ。 ランキングは、流行に乗り遅れたくないという心理を高める効果を持つと考えられる。ランキング上位の商品や情報を選択する人は、増加する可能性がある。買う人が増えて人気が高まると、 「買うから流行る、流行るから買う」という連鎖反応が起きることもあるだろう。 しかし、その心理を逆手に取った嘘のランキングも出てくる可能性もある。人為的なランキングの情報操作である。消費者としては、ランキングに盲目的になるのではなく、あくまでも意思決定の一つの判断材料として利用することが良さそうだ。
真壁 昭夫