山本理顕「プリツカー賞受賞者が語る、日本の建築と能登復興」
「建築界のノーベル賞」と称される1979年創始のプリツカー賞を、今年は山本理顕氏が受賞した。同賞は米国の資産家ジェイ・プリツカーが設立し、年に1度選ばれる表彰者には賞金10万ドルとブロンズメダルが贈られる。現在の思いや建築が持つ力など、話を聞いた。 (『中央公論』2024年9月号より抜粋)
地域社会に貢献する建物
プリツカー賞の受賞にもっとも驚いたのは、私自身かもしれません。何しろ批判ばかりされてきましたから。(笑) そこで、どういう人に贈られる賞なのかを改めて調べてみました。例えば2022年の受賞者は、西アフリカ・ブルキナファソの若い建築家フランシス・ケレさん。ヨーロッパで学び、祖国に小学校をはじめ多くの公共施設を建設しています。大きな特徴は、地元の素材や工法を駆使しながら非常に近代的でスマートな建築を実現していることです。私も直接お話ししたことがありますが、経済的には決して豊かとは言えない祖国に、建築を通じて心の豊かさを伝えたいという意欲に満ちた方でした。 21年に受賞したのは、フランスのアンヌ・ラカトンさんとジャン・フィリップ・ヴァッサルさんの男女チーム。二人は徹底的にローコストの素材を使い、集合住宅や大学などの公共施設をつくってきました。私は現地で見学しましたが、外に対してオープンで気持ちのいい建築です。 それからもう一人、すごい人だと思ったのが審査委員長を務めるアレハンドロ・アラヴェナさんです。チリの建築家で、16年に同賞を受賞しています。その代表的な建築が、チリの集合住宅。1戸ごとに半分だけつくられていて、残り半分は空洞になっている。そこは住む人が各自、好きなようにつくってくださいという建物なのです。 しかし低所得者を対象にした住宅なので、個人がお金を出して完成させることは難しい。そこで地域の人と協力し合いながらつくっていくことになります。ここが最大のポイントで、それによって社会的弱者でも住めるし、なおかつ地域にコミュニティが生まれる。アラヴェナさんはそこまで意図して設計しているわけです。 こうした方々の建築を見れば、プリツカー賞の性格がよくわかるでしょう。単に建物として美しいとか機能的とかいうだけではなく、それがどれだけ社会に貢献しているか、周辺の環境に配慮しているかを問うているのです。建物を通じた地域のコミュニティの活性化を一貫して目指してきた私は、まさにその点を高く評価していただけたのかなと思います。 言い換えるなら、建築にはそれだけの力があるということです。その国や地域の文化であり、社会の諸問題を解決するほど強い思想を発信し、そしてそれを実現し得る。建築家には、その期待に応えるだけの意思や実行力が求められるわけです。