『極悪女王』長与千種×白石和彌が語る。試合もプロレス技も演じたキャストたちは「毎日が戦いだった」
男社会で賭けの対象にされたが、「最後の最後には私たちを支配できなかった」
―心の負の面や暴力性、そのなかに垣間見える人間愛といった白石監督らしさもありつつ、松永兄弟や父親など支配してきた男性たちへ女性たちが連帯し、逆襲し、解放されていく物語には新鮮さも感じました。このようなシスターフッド的な題材を撮るうえで意識したことはありますか? 白石:シスターフッドっぽい感じも出せれば良いなとは思っていましたけど、青春物語にしたいという意識のほうが強かったですね。それは長与さんやダンプさんたちの話を聞いたり、俳優たちが同じような努力をするのを見ていくなかでより顕著に思うようになりました。ドキュメンタリーに近い俳優たちのプロレスを見ているだけで、きっと誰かの応援歌になるだろうと。 ―自分たちの歴史がこのように男性支配から抗う物語として描かれて、長与さんは当事者としていかがでした? 長与:全女は松永会長のウルトラワンマンで、プロレスラーを掌の上で転がすのが本当に上手だったんですよ。私は詐欺師だと思っているんですが、彼もモンスターだから、本物のモンスターをつくることができたんでしょうね。 互いに「あいつらがこういうふうに言ってるぞ」と、いとも容易く憎み合うよう仕向けられて、支配されて、男社会で賭けの対象にされて。でも最後の最後には私たちを支配できなかったんですよね。最後の試合であるダンプさんの引退試合は会社の意向をまったく無視して、何か言われても「やかましいよ!」って跳ね返して、自分たちがやりたかった自分たちの試合をやったんです。だから、『極悪女王』はきちんと私たちの感情を描いてくれているなと思いました。 白石:もちろんドラマのようにリングサイドで松永兄弟を殴ったりはなかったですが、それをかたちにしたのが最後の場面ですよね。でも長与さんはこうして松永兄弟を詐欺師だとか言ってますけど、好きか嫌いかで言うと大好きなんですよ。 ―あれだけ酷い扱いを受けたのに? 白石:話を聞いているとみんなそうなんです。ダンプさんも「あの人は最低だ」と言いながら、結局みんな好きが溢れ出していて。面白い関係性ですよね。 長与:会長のお墓参りに行ったときも、お墓の前にドカっと座って暑いなか2時間くらい文句を垂れていましたから。そのときに「あ、私この人のことが好きなんだな」と思いました(笑)。 白石:好きじゃないとそんな文句も出てこないですもんね。 長与:自分たち昭和55年(1980年)に入門した選手は、当初彼らから「ハズレ」って言われていたんですよ。「ハズレの55年組じゃメシを食えない」って口癖のように言われていたのが頭のなかにずっと残っていて、いつか反乱起こしてやると。それで最後に彼らの意向をすべて無視したんです。でもそういう自分たちのことを、会社の人も嫌いではなくて、最後は「仕方ねぇな」と笑ってるんですよ。酷いこともされたけど、すごく深い信頼関係もあった。 白石:なんだかんだでもう一人の親ですよね。 長与:そうだと思います。