『極悪女王』長与千種×白石和彌が語る。試合もプロレス技も演じたキャストたちは「毎日が戦いだった」
試合も技も俳優が演じる 「彼女たちにとっては毎日が戦いだった」
―試合シーンに挑む俳優の皆さんにもモチベーションを上げる話をしていたとか。 長与:プロダクションの人に怒られるかもしれないけど……なあなあになってしまうと良い作品はできないと思ったので、心を鬼にして言ったのは「痛いのは商売だよ。自分たちで選んだんだから、そのつもりでリングに上がっていきな」と。そして「私はここにいて、みんなとちゃんと見てるから」とも伝えました。そこはしっかり信頼関係ができていたので。 白石:モチベーションを上げつつも、撮影に時間がかかりすぎると怪我にもつながるから、ときには冷静になることを言ってくれていました。安全面だけでなく、体調やメンタルのケアまでやってくれて。監督がもう一人いるみたいでしたよ。 長与:これから試合があるってときに、プロレスラーは緊張感やいろんなことで体が徐々に赤くなることが多くて。でも、彼女たちの場合はそれが「目」に現れていましたね。プロレスラー役の俳優たちはメインキャスト以外も、みんな会場入りするときには飢えた目をしているんです。彼女たちの飢えた目が言葉よりも感情を物語っていました。 白石:たしかに「彼女たちの目の強さはうちのレスラーにも教えてあげたい」ってずっと言ってましたもんね。 長与:全員がライバル関係で、ほかの人より良いセリフが言いたいとかじゃなく、「誰よりも良い試合がしたい」って考えているんですよ。でも試合の撮影には怖さもあるし、長丁場だし、体力や精神力もいるし、たしかにそれくらい飢えてないとできないですよね。 ―試合シーンのギラついた目は演技だけではなかったんですね。 白石:昨日まで道場でできた技が、いざ当日軽くやってみようとなったら、上手くいかない時もあるんです。 長与さんはつねづね「できないと思ったら絶対本番ではやらせないから」と言ってたので、これは厳しいかもな……と相談していたら、選手の子が「やれますから流れを変えないでください」とすごい表情でこちらを見てきたり。 長与:私は怪我は美学でも美徳でもないと思っているんです。できない技を本番でさせると怪我をしてしまうかもしれない。 最初はみんな頑なに「大丈夫です」って言うんですよね。だから、大丈夫じゃないことも正直に言えるよう信頼関係をつくっていきました。いままでいろんなプロレスの映画やドラマを見てきましたが、試合や技も俳優自身がやるということはほとんどなかったので、彼女たちにとっては毎日が戦いだったと思います。 ―難しいから代役でいこうか……と言われていた「フライングニールキック」も、唐田さんが必死の思いで習得して試合で披露したと仰っていましたね。 長与:彼女も負けず嫌いで、最初はできなくて泣いてたんです。それでも眼前まで詰め寄ってきて、唇を震わせて大粒の涙を流しながら「やります」って。じゃあできるまで練習しようと頑張って習得したんですけど、どうせやるんだったらとことんやろうという姿がすごい良いなと思いましたね。 ―そういう一人ひとりの努力が結びつき、団結して観客を魅せるものをつくりあげていくという点で、ある意味プロレス興行と映画・ドラマ製作は通じるところがありますよね。 白石:それはあらゆる部分において感じました。たくさんの共通点がありつつ、そのなかで新たな視点もあるからつくりながらいろんなヒントをもらっていましたよ。 特に間の取りかたとか、目の使いかたとか、芝居をすることとプロレスをすることはかなり通じるなと。厳しい世界で生き残るプロレスラーは、自分の生きかたや背景を見せるのが巧いですよね。その人自体がある種の物語だから見ていて学ぶことは多い。だから映画人にもプロレスファンはめっちゃ多いですよ。 ※以降、物語の内容に関する記述があります。