「不倫の傷のケア」すれ違い夫婦の思い込みと本音、約3000組の「関係修復」実例
実例4:セックスレスの裏に隠された、本当の問題
子づくりのためのセックス以外は、10年もセックスを拒否された専業主婦の妻(38歳)。営業職の夫(40歳)に育児や家事の協力を呼びかけても無視されてきた。現在はセックスレスに関しては諦めていて、離婚を考えている。子どもは7歳と2歳。 「10年間抱えていたセックスレスの問題と今ある離婚問題。2つはつながっていますが、まずはそれぞれ分けて考えることが必要でした。 妻が離婚を考える理由は、セックスレスにあると夫は考えていましたが、カウンセリングを進めていくうちに、本当の問題は彼の無関心にあることがわかってきました。でも夫は、そのことをすぐに理解できませんでした」 妻は「女として自分を見てくれない」という孤独を夫は理解していなかった。一方、離婚を考えた理由は精神的なつながりが希薄になっていることが原因だった。 「セックスレスに起因する痛みは峠を越えて、別の問題に置き換わっているのに、行為ばかりを意識すると、問題の本質である、ケアすべき部分を見誤ってしまいます」 セックスレスの悩みは、自分を受け入れてくれない、大切に扱ってもらえないという寂しさにつながる。問題の本質と心の傷を夫に理解してもらうことが、修復への手がかりとなった。さらに最近、特に目立つ相談を安東氏は2つ挙げる。 「コロナ禍でほかの女性とオンラインで交流している夫に、モヤモヤするというご相談が増えました。この悩みは全年代に見られ、『SNS浮気』といえる問題が増加傾向にあります」 平日の夜や休日に、夫がオンラインでほかの女性と楽しくおしゃべりをしていることで、夫婦関係が悪化するケースが目立っている。 夫は肉体関係がないから浮気ではないと主張するが、妻は自分よりもオンラインの女性と話す時間が長いから本気だ、精神的に浮気をしている夫が許せない、と夫婦の間で食い違いが生じている。 「SNSでの交流が問題になるのは、夫婦関係が希薄だからではないでしょうか。夫婦間に親密な関わりがあれば、オンラインの交流が、それほど気にならないはずです」 肉体関係がないから浮気ではないという夫と、精神的に浮気しているという妻の言い分は、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープが共演した『恋におちて』('84年)のワンシーンにも登場する。 夫婦の問題は今も昔も変わらない。また前述したように、この半年間で、妻の不倫についての夫からの相談が増えているという。 「夫が妻の不倫を疑うと、探偵事務所に調査を依頼するケースが少なくありません。証拠をつかむことで、いっそう夫婦関係の修復が難しくなっているケースもあります。情報をつかむことが必ずしもいいとは限らないんです」 また50代以上の相談で特徴的なのは、一方が離婚を決意し、もう一方はそのことに気づいていないことだという。 「結婚してからの長きにわたるわだかまりは、すぐには解消できません。夫婦関係を見直すなら、早いほうがいいと思います」 ため込むことで不平や不満、さらには不信感が募っていく。手遅れにならないうちにケアが必要だ。 安東秀海(あんどう ひでみ)●夫婦関係を専門とするカウンセリングオフィス『LifeDesignLabo』(https://life-design-labo.com/top/counselor-profile/)のカウンセラー。もっと実例を知りたい人は『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』(日本ビジネスプレス)を。 取材・文/夏目かをる コラムニスト、小説家、ライター。恋愛、婚活、結婚をテーマに取材・執筆活動を行う