「不倫の傷のケア」すれ違い夫婦の思い込みと本音、約3000組の「関係修復」実例
実例2:親の借金の肩代わりを隠す夫に、不信感を覚えた妻
夫(29歳)には結婚前から、妻(26歳)が知らされていなかった親の借金があった。そのことを後から知らされた妻は、夫に対して不信感を抱くようになったという。 「話してもらいたい妻と、その必要性を理解できない夫のそれぞれに言い分があり、そこに結婚観や夫婦間の違いがくっきりと表れていました」 夫に話してもらいたい妻は、知ることで夫を理解したいと思っている。そこには夫に対する愛情がにじみ出ているが、一方の夫は、親の借金のことを話すのは恥ずかしいと感じ、また妻に心配をかけさせたくないと思っていた。しかも結婚前のことなので、わざわざ話すこともないというのだ。 「互いの本音を聞くと、彼女が抱えていたのは“私を信頼していない”という寂しさでした。“信頼”が彼女にとっては“愛”を示す方法だったのかもしれません」 そこでまず、安東氏は、夫には「妻に甘える」ことをすすめた。夫は躊躇(ちゅうちょ)したが、そのことによって妻が納得してくれるとわかり、妻に「親の借金の肩代わりを、家計から出させてください」とお願いすると、夫婦の関係に変化が表れた。 「彼のほうは夫婦だからと、頼るのはよくないと考えていたようです。でも“そのことで君が寂しさを感じていたならごめんなさい”と謝ってくれたことで、彼女も少し気持ちが晴れたようです」 夫婦間の価値観の違いがカウンセラーによって、解きほぐされていく。解決の糸口となったのは、妻の夫への愛情。それを見抜いたことも解決につながったといえるだろう。
実例3:夫の不倫の傷がケアされない妻、気づかない夫
経営者の夫(43歳)に連れられてきた妻(38歳)。9歳と5歳の子どもがいる専業主婦の妻は、夫の長年の不倫の傷が癒えない。夫は相手と別れて、妻にすべての非を認めているが、妻は今でもあまり眠れず、食欲もない。「このままでは妻が病気になるのでは」と夫が心配している。 「夫は、不倫相手とは終わっていると不貞についても謝っているのに、どうして? と困惑しています。でも私からは、信じたくても信じられないし、許せなくても無理はないと2人に話しました。 というのも、不倫のように心が深く傷つく出来事があると、信じたくても、心がそれを拒みます。なぜなら信じることができるほど、心がまだ回復していないからです。信頼を取り戻すにも、心の回復にも時間が必要ということです」 夫は不倫をしても妻との関係は崩れることはない、と思っていたのかもしれない。身勝手だが「妻には自分しかいない」という思い込みがあり、自分自身が不倫をしても、家庭という帰る場所があると。 謝罪を受け入れたはずなのに、どうして以前のような関係に戻らないのか……。心の傷は身体の傷と同じではない。夫は自分のことを棚に上げて、傷ついた妻の気持ちをケアしようとしていないのだ。そんな妻の傷は、時間がたてば回復して痛みが薄れるとは限らないと、安東氏が指摘する。 「不倫をされた側は、心の傷を抱えています。でも本当の問題はそのことを夫が十分に理解をしていないことです」 心の傷が癒えないまま、子どものために我慢してきた妻が、子育てが一段落したり夫の定年を契機に、離婚を決行することも熟年離婚の特徴のひとつだ。妻の心の闇に気づかず、ある日突然離婚を言い渡されて、慌てふためく夫。だが修復の時期はとうに終わっていることが多い。 「このケースでは、不倫に傷ついた心をケアする方法をお伝えしました。一方、彼には焦らないで彼女のペースに合わせて一緒に歩んでいく感覚を持つことを提案しました」 心が傷ついているときは、前を向くことが難しいことをわかってもらう。まずは自分の心のケアに専念することが、解決の第一歩なのだ。