「週1回の休漁」でお金をもらえる?衝撃の日本漁業の資源管理、このままでは国際条約に抵触する可能性も
国際条約に抵触の可能性
こうした杜撰な「資源管理計画」は、国際的な約束にも抵触する可能性がある。22年6月に世界補貿易機関(WTO)で漁業補助金協定が採択され、日本もこれを批准しているが、この協定では乱獲された資源に関する漁業への補助金が禁止される旨の文言が盛り込まれている(第4.1条)。 但し、その補助金やその他の措置を通じて資源が持続可能な水準に回復するよう目指されている場合には,補助金供与が許されるとも規定されており(第4.3条)、「今回の合意で補助金を具体的に減らさないといけないとは捉えていない」というのが日本政府側の認識である(共同通信2022年6月18日配信)。 しかしながら,「積立ぷらす」等により減収補填された漁業者が漁獲の対象としているものが乱獲された資源であり、かつ当該漁業者が実施している資源回復のための措置が「資源管理計画」しかなく、その内容が週1日休漁のみであるなど資源が持続可能な水準に回復することが目指されているとは見なし難い場合、漁業者に対する減収補填は漁業補助金協定で禁止された補助金に該当し得るだろう。また、そもそも乱獲資源に対する資源回復のための措置を講ずることなく漁業者に対して減収補填し続けることは、当該漁業資源に対する乱獲を助長させる結果となるだろう。
漁業補助金協定はWTO加盟国及び地域(164)の3分の2が受諾すると発効するが、現在45カ国および地域が受諾書を寄託している。協定発効後はメンバーの代表で構成する漁業補助金委員会が設置され、メンバーから提供された情報に対する検討を行うことになっている(第9.2条)。わが国の補助金が現状のままであるならば、この委員会などにおいて他の協定メンバーやNGOからの批判に晒される恐れなしとしない。
資源管理ができなければ、補助金を打ち切れ
先ほどの図でも示したように、「資源管理計画」の内容が「週に1度の休み」でしかないものの割合は、自治体によりかなり異なっている。このことは、「資源管理計画」の形骸化の度合いも、自治体により相当程度異なっていることを示唆している。 実際、筆者も地域レベルで真摯に自主的資源管理に取り組んでいる多くの漁業者を知っており、こうした努力は高く評価されるべきであると常々痛感させられている。問題なのは、「資源管理計画」の形骸化を放置すれば、同じ資源を漁獲の対象としている真面目な漁業者が一方的に割を食い、何もしない漁業者の「ただ乗り」を容認してしまうことである。加えて、獲り放題獲ってしまった結果、資源と漁獲収入が減少すると、その「乱獲」という行為に対して国から補助金という「ご褒美」が与えられるという矛盾した事態も放置されたままとなってしまう。 資源管理計画に対する不透明性という問題意識を反映したのであろう、漁業法の改正に伴い、今年度から「資源管理計画」は「資源管理協定」に移行され、その内容は公表されることとなっている。また、都道府県は定期的に資源管理の状況の評価・検証を行い、必要に応じて取組内容の見直しを行い、その結果は公表されることが予定されている。 公表された資源管理協定が制度の趣旨から外れ形骸化されたものであるならば、そのような協定に対して減収補填は一切認められるべきではないだろう。また、もし資源管理協定の相当部分が形骸化してしまったならば、残念ながら減収補填プログラムは制度の趣旨から外れてしまったという意味で終了されてしかるべきであり、そのように予算の査定をすべきである。 漁業法の改正に伴い、水産予算は18年度2327億円であったものが24年度には3169億円と総額842億円、36%も増額されている。これは科学的な資源管理の実施によって、改正漁業法で目的とされている「水産資源の持続的な利用を確保するとともに……漁業生産力を発展させる」(第1条)ためのものであるはずである。 資源管理が形骸化し減収補填補助金の注入が常態化すれば、漁業生産力は発展するどころか、よくて現状維持、悪ければ右肩下がり、水産資源の持続的な利用にも程遠いこととなろう。真に資源管理に資する「資源管理協定」の実施を通じた、水産資源の保全と持続的な利用が望まれる。
真田康弘