なぜ石破政権は大苦戦しているのか…自民党が総裁選で絶対にやるべきだった「禊の済ませ方」
■与野党どちらの政策も誰にも読まれてない 【安田】今回の総裁選がその答え合わせになる、という見方もできそうですね。 【西田】ええ。何となく自明のことのように言われている「派閥の解散」や政治改革が、国民の目に茶番と見透かされるようであれば、「自民党は変わる気がない」と見做されて総選挙もおぼつかなくなるかもしれません。とはいえ、では、野党に新しい動きがあるかといえば、それもないのが何とも言えないところですね。今、与党が支持されている理由は、「ほかにいい総理がいないから」等の消極的理由なんですよね。選挙で自民党が惨敗したとしても、「消極的与党支持」が「消極的野党支持」に変わるだけで、それこそ消極的に野党連立政権が生まれる、という話では大変に寂しい。だからこそ、野党はここでしっかりと骨太の政策議論を通じて、国民に政権担当能力をアピールするべきだと思うのですが……。 【安田】そうですね。でも、日本にはそもそも表立って政治家が政策論争をしたり、政治信念を議論したりする習慣自体が根付いてないですよね。 【西田】野党においてすら、政策を議論する開かれた場をつくってこなかった。ならば、そうした「お座敷」みたいなものを、メディアが意識的につくっていかないといけないと思うのですが、現状では新聞もテレビも有力候補者の単独や少数のインタビューばかり。メディアは「中立性への配慮」などと言いますが、有力かつ異なる政治見解を持つ自民党議員同士が議論する場を、もっと用意していくべきなのではないでしょうか。実は自民党もネット動画放送の「Café Sta」というオウンドメディア的なところでは、議員同士の議論のようなことをやってはいるんです。でも、それを見ているのは自民党の支持者だけでしょう。 【安田】イギリスでは野党第一党がいつでも政権交代ができるよう、閣僚候補をあらかじめ用意しておく「シャドーキャビネット」や、党首討論がいい感じに機能しています。 【西田】オープンでも立候補制でもないのですが、立憲民主党もシャドーキャビネットはやっているんですよ。 【安田】一応、あるんですか。 【西田】あるんです。ただ、「合宿」をしたといった報道はあるものの、そこで何を議論しているのかはほとんど見えてきません。それに、ほとんど一般には知られていないじゃないですか。日本では政策を平易に記したマニフェスト文化も退潮してしまいました。民主党政権時代に子ども手当などの財源がなくなり、安倍政権でも大量の公約の実現を気にしなくても、何となくどうにかなってしまった。すっかり2000年代以前の誰も読まない「政策集」に戻った感じです。公約に対する姿勢については、与党も野党も先祖返りした感があります。 【安田】その意味ではもう少し俯瞰した視点から考えると、この総裁選を見ていてつくづく思うのは、今の政治にはもう少し流動性があってもいいのではないか、ということです。例えば、総裁選に立候補する際、20人の推薦人が必要だという自民党のルール。これは利点のほうから考えると、一定程度のハードルを設定することで、ポピュリズムを防止する知恵とも言えます。でも、一方でこのハードルの存在によって、例えばアメリカにおけるオバマ元大統領のような、実績の乏しい優秀な候補者が表舞台に出てこない。僕はそれがちょっと残念だなと思うんです。