「日本人は動物に似ている」日米開戦で暗躍した二重スパイが語った「日本人から信頼を得る方法」
対英問題を担当するFBIのフォックスワース副長官は、数日前にそのスティーブンソンに会いに行っていた。フォックスワースの言葉は、歯に衣着せぬものだった。 「これは決定的な証拠です」と彼は言った。 「ラトランドを銃殺刑にしてもよいような、十分な情報があります。イギリス軍将校銃殺なんてことになれば、アメリカの新聞の大見出しを飾るのは必定ですがね。そんなことになる前に、英国当局として、自軍将校の本国送還を望まれる、というお考えはないものでしょうか」 ● アメリカでもイギリスでも日本でも 誰でもいいから私の話に乗ってくれ そこでスティーブンソンは、ラトランドをイギリス本国に送還する意向をモード少佐に伝えており、モードはラトランドに、イギリスへの帰国を提案するつもりだった。 ところがラトランドは、まったく異なる思惑でここに来ていた。彼はモードたちに仕事、あるいは少なくとも、アメリカ海軍と同様の取り決めをするよう持ち掛けた。来るべき日本との戦争に備え、イギリスからも資金を得たい。メキシコにいる日本海軍の士官に協力しながら、いつ日本が攻撃を仕掛けてくるかを察知できるように英国側を手助けしたい。さらに、日本はメキシコで無線傍受作戦を実行している。これにより、どれだけ多くの情報がドイツ側に流れているかも、自分が協力すればよく分かるはずだ、という。 ずっと監視していたFBIのタム副長官は、ラトランドの動きは馬鹿げている、と感じた。それはもう、ほとんど笑い出しそうなほどである。 アメリカ海軍、イギリス大使館、日本海軍の当局者と同じ日に面会する容疑者とは、一体、何者なのだろうか?しかし、それを理解するのは簡単だった。要するにラトランドは、何でもいいから自分の身を守ろうとしているのであり、首都ワシントンで助けてくれそうな人には誰にでも、片端から話を持ち掛けているのである。結果をもたらしてくれる相手なら、誰とでも喜んで手を結ぶ男なのだ。
ロナルド・ドラブキン/辻元よしふみ