【いま「大人の発達障害」が増えている?】「ケアレスミスをしてしまう」お悩みにアドバイス
仕事での悩みは誰もが経験するもの。けれど、発達障害の特性が強い人はその悩みも大きくなりやすいといいます。頑張っているのに仕事がスムーズに進まない、ついミスをしてしまう──。その背景にあるのは、時間の感覚をつかむのが苦手、こだわりが強い、優先順位を判断しにくい…といったさまざまな特性。そこで、昭和大学発達障害医療研究所の太田晴久先生に、仕事の場で起こりやすい困りごとの理由と、その対処法を伺いました。 【画像】大人の発達障害かも?と思ったら
【大人の発達障害の困りごと】ケアレスミスをしてしまう
ケアレスミスは誰にでも起こりうるもの。ただ、発達障害の特性が強い場合は取引先との予定を忘れる、成田空港に行くつもりが羽田空港に行ってしまうなど、大ごとになる可能性が。というのも、発達障害の特性が強い人は、口頭で言われたことや思い浮かんだことを一時的にとどめておく記憶の働き(ワーキングメモリ)がもともと弱い=情報の受け皿が少ないのだそう。そのため、新しい情報が入ってくると優先順位がわからなくなり、混乱した結果、新しい情報はそのまま抜け落ちていく、または新しい情報が入った分それまで入っていた情報が抜け落ちることに。また、思い込みが激しい特性ゆえに自分の記憶を疑わず、メモやスケジュールを確認しないで行動することも原因のひとつ。「自分は忘れてしまう」という前提での予防策が効果的です。 〈自分でできる対策〉 ●メモ帳やスマホなどに記録して、情報の受け皿を増やす ワーキングメモリの弱さをカバーするポイントは、「情報の受け皿を外に作ること」。忘れてはいけない情報は、自分の脳だけで記憶しようとせず、メモ帳やスマホに記録。自分では必要性を感じない仕事でも、職場でやるべきことのひとつととらえて記録を。 ●間違えることを前提に確認する時間を取る 毎日、その日の予定や翌日の予定を確認する習慣を身につけましょう。PCの画面上だと見落としやすいので、できればプリントアウトして確認を。メモやスケジュールを声に出して読みながら、読み飛ばさないように指さし確認をすると安心。記憶違いに気づくきっかけにもなります。また、予定の1日前・1時間前・10分前など何重にもアラームをかけておくと、そのつど正しい予定を意識できて記憶の間違いも訂正できます。 〈周囲ができること〉 ●指示を終えるまでは次の指示を出さない(話しかけない) 同時にいくつもの情報を処理する、記憶を保持するといったことが苦手な人がいます。例えば、車の運転中に「次の信号を左折」と指示されたあと、信号までのあいだに別の話題になると、曲がることを忘れてしまいます。本人は最初の指示に集中しているので、それが完了するまでは次の指示を出さないように心がけて。 ●ダブルチェックの時間を取る どれだけ本人が気をつけていても、間違いに気づかなかったり、抜け落ちたりすることはあるもの。一度ミスをして叱られると、「間違えてはいけない」というプレッシャーから、さらにミスが増えて悪循環になる可能性も。本人だけに責任を負わせるのではなく、あらかじめダブルチェックができるスケジュールを組みましょう。 太田先生: 発達障害の特徴は非常に多彩なので、方程式のようにすべての人に必ず当てはまるかというとそうではありません。例えば、「仕事が終わらない」という困りごとでも、ASD(自閉スペクトラム症)の人は細かいことにこだわって進まない、ADHD(注意欠如・多動症)の人は他のことに気を取られてしまって進まない、というケースが多く見られます。また、ASDとADHDは併存することが多いので、「私はADHDだからこの方法しかダメ」と決めつけず、いろいろな解決策の中から自分に合った方法を見つけることが大切です。 昭和大学発達障害医療研究所 所長 太田晴久 精神保健指定医、日本精神神経学会 指導医・専門医。2002年に昭和大学医学部卒業後、昭和大学附属病院、昭和大学附属烏山病院 成人発達障害専門外来などで勤務。2012年から自閉症専門施設のUC Davis MIND Instituteに留学し、脳画像研究に従事。2014年から昭和大学附属烏山病院、発達障害医療研究所にて勤務し、現在は昭和大学発達障害医療研究所 所長(准教授)。特に思春期以降の成人を中心とする発達障害の診療や研究に取り組んでいる。著書に『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)など。 イラスト/hakowasa 取材・文/国分美由紀 編集/種谷美波(yoi)