奇本「マツケンサンバのハッピーまちがいさがし」誕生秘話 “剣はNG”の世界観が初めて明らかに
マツケンのイチオシ「ミラーボールの木」が生まれるまで
ならば写真にはとことんこだわろうと、制作チームは打合せを重ねた。マツケンは何に興味があって、どんな毎日を送っているのか? 松平さん自身の趣味や性格も反映しながら、マツケンが起きてから寝るまでの全70シーンを、ひとつひとつ具現化していった。制作を進める上でのキーワードは、「わかりやすくてキャッチー」、そして「明るくてハッピー」だったという。また、ご本人サイドから「全体的にキラキラさせて」との希望もあったそうで、目指すところはまさに、世間が抱いているであろうマツケンサンバの印象そのものだ。 「そのうえで、松平さんサイドからはまず、マツケンサンバには欠かせない『ミラーボール』が出てくるシーンと、ステージで使うマイクを選んでいるシーンの案を出してくださいました。そこから生まれたのが、ご本人もいちばんのお気に入りという、“ミラーボールの木”を育てているカットです。でも、これ……どうやって表現したらいいのか、そうとう悩みました。小道具は手作りしたものもたくさんあるのですが、“育成中ってことは、いろいろな大きさのミラーボールの実が必要だよね”、“実の模様も複数あったほうがバリエーションが出るかなぁ”と、あれこれ考えながら何種類もミラーボールを買ってきて、自宅の観葉植物に吊るしてバランスを見るなど、悪戦苦闘しました。 だから、現場で松平さんが“これ、やっぱり面白いね”と笑顔を見せてくださったのは嬉しかったですね。このシーンに限らず、細かい設定を考え抜いたので、読者の方から“写真を見るだけで癒される”、“かなりこだわって作っていますね”などの声をいただけることが励みになっています」
マツケンサンバの世界における暗黙の“掟”とは?
「あと、実は、驚きの事実が判明しまして。マツケンサンバの世界では、剣の使用がNGだったんですよ! 私は、(松平健の代表作である時代劇の)『暴れん坊将軍』とちょんまげのイメージもあって、“剣を使って、殺陣の練習とかをしているシーンも入れられますか”と提案してしまったのですが、“いや、マツケンが持つのは、剣じゃなくてマイクなんだよ。剣は、腰に刺してすらいない。武具もつけない。この世界でのマツケンは、上様ではなく町民だからね”と言われてハッとしました。 つまり、マツケンは雲の上の存在ではなく、もっと私たちに近しい存在なんですよね。だから、ご近所さんと仲良く交流しているシーンを入れたり、住んでいる家の中もどこか庶民的で、ツッコミどころが多々あったり。そういった親しみやすさを大事にして作りました」 なるほど、マツケンサンバの世界には殺伐とした空気など必要なし、どこまでもラブ&ピース街道を突っ走っているのだ。不景気が叫ばれて久しい現代において、その存在がわれわれの心を掴んで離さないのにも頷ける。 インタビュー後半では、脳内科医も太鼓判を押すマツケンサンバ×間違い探しの効能や、撮影現場で山口さんが心を打たれた松平さんのふるまい、マツケンサンバが数十年にわたり愛され続けるゆえんを深堀りしていく。 (取材・文/篠宮 明里) 【INFORMATION】 『マツケンサンバのハッピーまちがいさがし』(松平健著/幻冬舎刊) 定価:1700円+税 A4オールカラー/80頁 《特典》人生は間違いさがしのようなものシール 封入 松平 健(まつだいら・けん) 1953年11月28日生まれ、愛知県出身。’75年にドラマ『座頭市物語 心中あいや節』でデビュー。’78年にドラマ『暴れん坊将軍』の徳川吉宗役に抜擢され、大ブレイク。同シリーズは12作を重ね、放送終了後も人気を誇る。『利家とまつ』『鎌倉殿の13人』などの大河ドラマにも出演。また、’04年にCDを発売した「マツケンサンバII」で紅白歌合戦の出場を果たし、日本レコード大賞特別賞を受賞。令和に入りマツケンサンバは改めて幅広い年代から支持され、第2次ブームを起こしている。 デイリー新潮編集部
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