EU離脱問う突然の英国総選挙 くすぶり続ける残留論と山積する課題
イギリスのメイ首相は18日、2020年までは行わないと公言してきた総選挙を6月8日に前倒しで行いたいと突然発表。翌日には英議会下院で議会の解散と総選挙の実施が可決され、メイ政権発足後から1年足らずの間に総選挙が行われる運びとなった。先月末に欧州連合(EU)側に離脱を正式に通告したイギリスは今後2年内に離脱手続きを完了させる必要があり、限られた時間で離脱を円滑に進めたいメイ政権と与党保守党はこのタイミングで議席を大きく増やしたい狙いがある。しかし、離脱をめぐってイギリスがさまざまな問題に直面しているのも事実だ。
議席を増やして円滑に離脱交渉する狙いか
「首相に就任して以来、私は2020年までは選挙は行われるべきではないと公言してきました。しかし、これから訪れる数年間を確実で安全なものにするために、このタイミングで選挙を行い、イギリス国民の指示を仰ぐことが最善であるという結論に達しました」 18日にダウニング街10番地にある首相官邸の外で、メイ首相は集まった報道陣に向かってこのように切り出し、総選挙を前倒しで6月8日に実施したい意向を明らかにした。イギリスでは2011年に「議会任期固定法」が作られ、首相が解散権の行使を行うことができず、議会の解散には下院(定数650)の3分の2以上の賛成が必要となったため、メイ首相はまず総選挙前倒しの「意向」のみを発表した。翌日19日の午後に英下院で行われた投票では、賛成票522という結果で総選挙の前倒しが可決され、5月3日に議会が解散することも決定した。 野党労働党のジェレミー・コービン党首は、前倒し総選挙を起死回生の大きなチャンスとして総選挙というギャンブルに賛成した。イギリス国内で実施された複数の世論調査では、どれも保守党が労働党を20ポイント以上リードしており、奇跡でも起こらない限り、労働党が議席を大きく伸ばすという目論見は夢物語で終わってしまう。また、保守党内部では、党重鎮らの中にいるEU離脱強硬派から、野党の抵抗をできるだけ少なくして交渉に臨む必要があるとメイ首相がプレッシャーを受けていたとの情報もあり、それが18日の突然の前倒し選挙についての言及につながった可能性がある。 当初、メイ政権はEU離脱後もイギリスがEU内の単一市場に残留して経済活動を続ける「ソフト・ブレグジット」を目指していたが、あまりにイギリスにとって都合のいいソフト路線を認めるEU加盟国はなく、現在は経済面でもEUから離脱する「ハード・ブレグジット」に方針転換している。 もともとEU離脱の是非を問う国民投票前に大きな議論となったのは、イギリス国内で働く他のEU加盟国出身者の多さであった。ホワイトカラーからブルーカラーまで、EU加盟国出身者はさまざまなタイプの仕事に就いており、その数は約320万人。同様にヨーロッパ大陸で仕事をするイギリス人も約120万人いる。離脱後に彼らが仕事を続けていけるのか、母国を含んだほかのEU加盟国に移動を迫られるのか。労働力の移動も大きな問題になる。