EU離脱問う突然の英国総選挙 くすぶり続ける残留論と山積する課題
スコットランドなど分離・独立求める声も再燃
昨年6月に行われた国民投票では、イギリス全体では離脱派の勝利となったものの、地域ごとに目を向けると、様相は少し異なる。スコットランドでは「残留」に投票した有権者が62パーセントに達していた。北アイルランドも、55.8パーセントが「残留に投票」。一方、ウェールズは52パーセントで離脱派の勝利。ロンドンをのぞいたイングランド全体では57パーセントが「離脱」に投票したが、ロンドンのみで見ると「残留」に投票した有権者が約60パーセントに達した。 残留派が過半数を超えたスコットランドと北アイルランドでは、イギリスからの独立を求める国民投票を行い、その後EUに再加盟すべきとの声が上がっている。とりわけ、宗派間対立とイギリスの介入によって南北を分断されているアイルランドでは、北アイルランドがイギリスから独立したのち、アイルランドと統合すべきだとの声が日増しに強まっている。3月28日にはスコットランド自治政府議会で、イギリスからの分離・独立を求める2度目の住民投票の実施を求める動議が賛成多数で成立している。 スペインに近い英領ジブダルタルも、イギリスのEU離脱に懐疑的な住民が少なくない。国民投票前にジブダルタルで行われた世論調査では、有権者の85パーセントが投票に行く予定で、88パーセントがEU残留を望んでいるという結果に。人口3万2000人のジブダルタルでは金融サービス業が主要産業の1つとなっており、EU加盟国は1つの国で免許を取得すると他国で新たに免許を取得することなく金融サービスが行える「パスポーティング」という制度を利用できるため、離脱はEUという巨大な単一マーケットから締め出されることを意味するのだ。 南大西洋にある英領フォークランド諸島は、現在も領有権をめぐってイギリスとアルゼンチンがにらみ合いを続けている場所だ。1982年には両国の間でフォークランド紛争が勃発し、両軍合わせて3000人近くの死傷者を出した。アルゼンチン政府の圧力によって南米地域への貿易がほとんど行えなくなったフォークランド諸島では、輸出品の約75パーセントがEU加盟国向けとなっており、EUからの離脱は地域の経済に大きな打撃となる。 EU離脱はイギリスの国外問題として考えるのは危険だ。スコットランドやジブダルタル、フォークランド諸島などのように、EUという後ろ盾がなくなることで経済的に将来を不安視する住民が多い地域に対して、イギリス政府はどのような対応を取るのだろうか。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト