EU離脱問う突然の英国総選挙 くすぶり続ける残留論と山積する課題
2019年3月までの離脱完了は可能なのか
EUのさまざまな分野でのルールを取り決めた基本条約である「リスボン条約」が発効したのが2009年12月。その中の第50条では、EU離脱を望む国が行わなければならない手続きも明文化されている。離脱国はEUの最高協議機関である欧州理事会に離脱の通告を行い、原則そこから2年以内に離脱を完了させなければならない。 EU加盟国が離脱を希望した場合、EU側に離脱を伝える必要があるものの、通告までの期限については特に定められていない。メイ首相は3月28日にEU離脱を正式に通告する手紙に署名し、書簡は翌日に欧州理事会のトゥスク議長に届けられた。ここから2年、つまり2019年3月29日までに、EUとイギリスの間で離脱に向けたさまざまな交渉が行われる。 今月29日にEU加盟国会合が行われ、ここでイギリスのEU離脱について話され、離脱への交渉がスタートすることになる。しかし、すぐ交渉が始まるかといえば、事情はそれほど単純ではないようだ。 今月23日にはフランスで大統領選挙が行われるが、1回目の選挙で50パーセント以上の得票率を得る候補が出ることはないとの予測が強く、5月の決選投票に持ち込まれるのは必至だ。またドイツでも9月に総選挙が行われる。フランスの選挙が終わり、ドイツの選挙が行われる前に、イギリスで総選挙が前倒しで実施されることが決まったため、イギリスのEU離脱に向けた手続きや交渉は、実際には秋ごろまで大きな動きはないだろうとの見方が強まっている。同時に、そうしたスケジュールが影響して、イギリスが2019年3月までにEU離脱を完了させるのには無理があるとの指摘も少なくない。
離脱完了に必要なのは交渉だけではない。政治ニュースサイト「ポリティコ欧州版」は20日、離脱に関してイギリス政府と交渉を進める予定の欧州委員会の内部資料を入手し、その内容を伝えている。ポリティコが入手したのは交渉内容の草案で、イギリスのEU離脱後に未払いのEU分担金を、イギリス側に最大で600億ユーロ(約7兆円)をポンドではなくユーロで支払うよう要求するという内容だ。これにはイギリス国内のEU関連機関の引っ越しに関する費用も含まれているのだという。 EU内の政策執行機関である欧州議会のアントニオ・タイヤーニ議長は、ポリティコが報じた欧州委員会の方針とは異なり、イギリスがEU残留を望む場合は、いつでもEU側はその意向を受け入れると語っている。 20日にロンドンでメイ首相と会談を行ったタイヤー二議長は「総選挙後にイギリスがリスボン条約第50条からの撤退を望んだ場合、EU側もその考えに賛成するだろう。私自身もそうなってほしい」と会談後に発言。リスボン条約からの撤退は法的にも問題なく、欧州司法裁判所に持ち込まれることもないという見解を示している。 欧州委員会やメイ首相はイギリスのEU離脱は既定路線で、どのような形で離脱を進めるのかに焦点を当てるような発言を続けているが、欧州議会のトップがイギリスに対してEU残留の逃げ道を与えるかのような発言を行ったのは興味深い点だ。タイヤー二議長はイギリスとEUの離脱交渉の時期についても言及し、本格的な交渉開始は早くても今年末になるだろうとの見通しを示した。