F1レッドブル失速の背景にある「弱点」とは? 中野信治が読み解くチャンピオン争いの行方
【マクラーレンはマネジメントに注目】 コンストラクターズ選手権に関してはレッドブルとマクラーレンのポイント差は42点(第14戦ベルギーGP終了時点)と接近しており、不振が続くペレスの状況を見ると、マクラーレンが逆転する可能性は十分にあるでしょう。 ドライバーズ選手権は首位のフェルスタッペンと2位のノリスとの差は78点。こちらはさすがに追いつくのは簡単ではないですが、逆転不可能な数字ではないと思います。 タイトルの行方は、マクラーレンが今後、チームとしてどういう戦略をとるのかにかかっています。後半戦、ノリスがチャンピオンを獲ることに完全にシフトしてオスカー・ピアストリをサポート役にして戦うのであれば、ノリスはタイトルに手が届くかもしれない。 おそらく、マクラーレンはそういう状況になることを考慮して、ハンガリーGPのレース終盤、トップを快走していたノリスにポジションを譲らせて、ピアストリに初優勝させたという経緯があったのではないかと推察しています。 つまり、今後、ノリスにチャンピオンを狙わせるのであれば、一回、ピアストリに勝利を譲っておくのが得策だというチームとしての判断があったと思うんです。 ただ、マクラーレンの問題はピアストリが速いことです。ピアストリのほうが明らかに遅いのであれば彼をノリスのサポート役に徹してもらって、ノリスはノープレッシャーでガンガン攻めてもらうという戦い方ができるのですが、このチームの難しいところは両者の力関係が拮抗しているところです。 下手したらピアストリは予選でポールポジションを獲得して、スタートで飛び出してそのまま優勝してしまう可能性があります。だからマクラーレンは舵取りが簡単ではないと思います。 優勝を狙える実力を持ったドライバーがチーム内にふたりいたら、こういった悩みが必ず生まれてきます。マクラーレンが後半戦、ドライバーをどうマネジメントしていくのかは大きな注目ポイントですし、タイトル争いのカギになると思います。 中編<F1角田裕毅の「評価を厳しくさせた」チームメイトの存在 中野信治が語る日本人ドライバーへの期待>を読む 後編<今季F1は「近年稀に見る壮大なショー」 中野信治が熱弁するランド・ノリスの特殊能力>を読む 【プロフィール】中野信治 なかの・しんじ 1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのカートおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を活かし、ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として、F1参戦を目指す岩佐歩夢をはじめ、国内外で活躍する若手ドライバーの育成を行なう。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や毎週水曜のF1番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当。
川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi