「築古アパートの立退料、いくらでしょうか?」大家から寄せられる相談に、ベテラン弁護士の意外な回答
築古都心の賃貸物件、立退料の裁判事例
ここからは、実際の裁判例・裁判の結果・立退料の相場について見ていきましょう。 事例(1)立退料800万円…平成30年2月22日 東京地裁判決 【建物】 東京都豊島区 昭和40年築(築年数:約50年) 木造作り 100平米×2の2階建て 【賃料】 10万円 【事情】 (1)借主:理容店を営業 (2)大家:更地にして駐車場を希望 (3)耐震:一般診断で0.22(通常は1.0~1.5) (4)リフォーム費用:約1,400万円必要 (5)立退料:800万円 比較的都心にある、築年数約50年の木造戸建てです。賃料は月10万円のため、いまの感覚からすると安めの印象です。 借主側は理容店を経営していますが、大家側は、築年数も経過していることから、取り壊して駐車場にしたいという希望がありました。 また、耐震性能を「一般診断」という方法で診断したところ、通常なら1.0から1.5必要となる数値が、0.22と非常に低く、リフォームする場合は約1,400万円もの費用が見込まれています。 月10万円の賃料に対して1,400万円のリフォーム費用は、大家側からすると非常に高額です。年間家賃収入120万円なので、10年でも採算が取れません。 注目すべきは、築年数が古く、かつ耐震診断の結果も「危険性あり」という数字が出ている状況でもなお、立退料が発生している点です。 ここから、立退いてもらうには立退料が前提となることがおわかりいただけるかと思います。 この事例では不動産鑑定を行って立退料を算出しましたが、3種類の鑑定方法によって、それぞれ200万円、400万円、800万円、という3通りの結果になりました。 不動産鑑定も、不動産鑑定士に頼んだからといって一義的に同じ数字が出るものではありません。また、これひとつで決定するものではないため、不動産鑑定と判決との結論にも差異が発生します。 事例の結果としては「3通りの評価が可能」との前置きのもと、結局1番高い800万円という結果になりました。 今回のように事業を行っている物件の立退きの場合、営業保障的な側面も出てきます。したがって、純粋に住居として使っているケースとは少し異なってきますが、このような結論に至っています。 事例(2)立退料1,000万円…平成30年2月16日 東京地裁判決 【建物】 東京都新宿区 昭和23年築(築年数:約70年) 木造作り 40平米×2の2階建て 【賃料】 5.5万円 【事情】 (1)借主:居住 (2)大家:解体して再築を希望 (3)耐震:構造評価で0.26(通常は0.7) (4)リフォーム費用:約1,700万円必要 (5)立退料提示:1,000万円 平成30年の判決で、新宿区の物件です。裁判の当時で建築から約70年が経過していました。 木造の40平米の2階建ての戸建てで、賃料は月5.5万円と、こちらも相場感からすると相当安いといえます。 借主側は住み続けることを希望しており、大家側は解体して新しい建物を建てたい、という希望がありました。 耐震性能としても、構造評価で0.7以上必要な数値が0.26しかなく、リフォーム費用の想定は約1,700万円。事例(1)よりもさらに高額なうえ、今回の事例の家賃は月5.5万円のため、10年どころか20年住んでもまったく回収できません。 今回の事例が事例(1)と異なるのは、裁判前の時点で「立退料を1,000万円支払うから出て行ってくれませんか」と提示していた点です。 それ以外の「老朽化の戸建て物件」「東京23区で比較的都心」という状況は、事例(1)とよく似ているといえます。 この事例は結局、立退料は当初から提示していた1,000万円で問題ない、という判決が出ました。
【関連記事】
- 年金月16万円の75歳母「老人ホーム」入居検討→実家売却のつもりが…まさかの事態に46歳長男「なにかの間違いだろ?」【FPが助言】
- 不動産価格・賃料価格高騰の一方で… 80代母経営の〈相続対策用〉マンション、家賃収入減少で「もう、売却するしか…」50代息子の憔悴【FPが解説】
- 「年金月40万円」でお金の不安なんて無縁のはずが…69歳妻の死で発覚した“40年来の隠し事”。年下夫が「老後破産」に陥ったワケ【FPが解説】
- 年収1,200万円の42歳勝ち組サラリーマン、フルローンで「8,000万円・タワマン」を余裕の購入も…5年後に「破産すれすれ」綱渡りのワケ【FPが解説】
- 年金事務所職員「残念ですが、受給資格がありません」…定年→再雇用で〈年収780万円〉65歳サラリーマン、“会社への恩返し”を後悔したワケ【FPが解説】