銀行「無事、融資が通ります」…年収1,000万円超の43歳課長、“2億円”の物件で始めた〈不動産投資〉の悲惨な末路【元メガ・大手地銀の銀行員が解説】
数年後の現在
あれから数年が経過した。 不動産を購入してから最初の1年間は約束どおり入金があった。しかし、サブリース契約を切られると(契約上、双方解約可能な建付け)実態の収入が明らかになった。 実際には空室や滞納などが多数ありサブリース賃料の半分にも満たなかった。 しかも、空室箇所については原状回復もなされておらず、水回りの交換も含めると最低でも100万円/戸の修理費用が必要だと判明した。 すぐに吉川および吉川の不動産会社に連絡を入れたが電話を解約しているようであり連絡が取れない状況になっていた。紹介者の佐々木も同様の事態が発生しており自己破産を検討しているそうだ。 加藤は、子供の将来の学費として貯蓄していた預金や保険を解約し、なんとかローンの返済に充ててきたが、それも限界が迫っており、妻にもいよいよ現状が明らかになりそうである。 不動産に詳しい大学時代の仲間に聞いたところ、不動産の謄本を調べるともとの所有者から吉川のグループ会社が加藤の決済と同日に取得して販売しており、このタイミングで大きな利益を出していたことが判明した。 サブリースによる多少の赤字は、このときの利益で十分に回収可能な水準である。あわせて売却価格の査定も依頼したが、実態は購入価格の約半分の1億円が妥当な水準であり、加藤購入時の相場もおおむね同水準であろうということであった。 いまではローンの完済はおろか訴訟に進むための弁護士費用も捻出できないという状況に陥ってしまっており、佐々木同様に自己破産を検討するか頭を悩ませている。
結論
いままで堅実に人生を歩んできた加藤さんについては以下の点に問題があったと思われる。 ・安定的な収入かつ手間がかからないという甘い誘惑に乗ってしまったこと ・友達(佐々木)からの紹介ということで、不動産業者(吉川)を入口の段階で信頼しきってしまったこと ・本来、不動産を買うときは妻や第三者に相談して何度も確認をしたうえで意思決定をする慎重な性格であるにもかかわらず、自分が使わないという理由から、数字だけで不動産購入の意思決定をしてしまったこと ・不動産投資に関する知識もほとんどないなかで最初から大きな借り入れ(2億円)をしてしまい、取り返しのつかない状況に陥ってしまったこと 不動産投資においては、楽をして儲けられるものはないとの前提が必要である。 油断が命取りになるケースもあるため、その業界で事業をするのであれば関連する知識の習得、専門家のアドバイス、または規模の小さい物件でまずはノウハウを積むなど初期の段階で大きなリスクを取らないことが肝要である。 小俣 年穂 ティー・コンサル株式会社 代表取締役 <保有資格> 不動産鑑定士 一級ファイナンシャル・プランニング技能士 宅地建物取引士
小俣 年穂