〈子のいない夫婦〉車はジャガー、大型犬を飼い、ヨットでクルーズという“勝ち組ライフ”だったが…66歳夫との死別で妻が痛感した「相続の苦労」
家族やパートナーなど身近な人の死後、のこされた遺族には「大量の実務」が待っていると、『親を見送る喪のしごと』の著者で作家・エッセイストの横森理香氏はいいます。しかも、家族構成や状況によってぶつかる壁はさまざまです。10年前に夫を見送った編集者のNさん(75歳)は、どのように死後の手続きを進めていったのでしょうか。横森氏がNさんに話を聞きました。
術後も筆談でおしゃべりを続け…「おしどり夫婦」だったNさんと夫
旧知の編集者Nさんは、10年前夫君をがんで亡くされ、1人暮らし。75歳のいまでも現役でお仕事をされているベテラン女子だ。元広告代理店勤務で経営コンサルタントだった夫君の趣味がヨットで、Nさんも雑誌編集者を早期退職してからフリーランスとなり、逗子在住。 ジャガーに乗り、大型犬を飼い、ヨットでクルーズ。お酒と美味しいものが好きなご夫婦で、仲良く素敵に生きてきた。夫君が60歳で喉頭がんの手術をしてからも、筆談でおしゃべりを続けた。 亡くなったのは66歳。この年、Nさんも大腸がんで手術、入院した。退院して帰ると、夫君がぐったりしていたという。 「慌てて病院に連れてって、点滴と再検査したんだけど、西洋医学的には見放されて、ホスピスを勧められたの」 そして、本人の希望で自宅療養することになった。 「地元の訪問医を契約して、緩和ケアをしてもらってね。痛みを取るモルヒネパッチもだんだん強いのになってって……」 看病するにも、自分もがんから生還したばかりだったので、夫君は要介護認定を受け、ケアワーカーさんを頼んだ。食事には苦労したが、最後まで普通に生活できた。 「喉がただれているからのど越しのいいものしか食べられないんだけど、スープとかなら外食もできたのね。一緒に映画も観に行けたし。寝たきりになったのは最後の1週間だけだったかな」 自宅看取りだったので、お世話になっていた地元クリニックの先生を呼び、死亡診断書を書いてもらった。 「大学病院の主治医は余命4か月と言ったけど、8か月生きられたの」