国交省サイトに雑誌『チルチンびと』の写真が“無断”掲載…「あまりに非常識」出版社が著作権侵害で国を提訴
「被害者はカメラマン」だが…風土社が原告となったワケ
日本住宅総合センターが販売した書籍に掲載された写真のうち、山下氏が著作権侵害にあたると主張する写真は計69点230か所に及ぶ。 このうち山下氏がカメラマンを把握している写真は59点196か所(カメラマンは14名)あるが、書籍ではいずれもカメラマンの氏名が記載されておらず、トリミングも同意なく行われていた。 風土社は雑誌に掲載するための使用料をカメラマンに支払う立場であり、再使用の際も著作権者に対して使用料を支払う契約を結んでいる。 また、風土社では写真の掲載にあたり、カメラマンのほか、取材対象となった建築の所有者らにも許諾を得ているが、いずれも雑誌掲載目的以外での使用許諾契約は結んでいない。ウェブサイトへの掲載、書籍としての販売となれば、当然個別にカメラマンの許諾をとる必要があるが、国交省と日本住宅総合センターは、無許諾で写真を利用している状態だという。 本訴訟の被害者は著作権を保有するカメラマンと言えるが、被害者が多数におよぶので、風土社を訴訟遂行の選定者とし、同社が原告となる形で進められている。 賠償額は、第三者に写真利用を許諾する場合の使用料から算出した。おおむね1点1か所あたり3万円から30万円の範囲でカメラマンと協議して決めていることから、1回の掲載につき11万円で計算。被告らが写真を無断でトリミングしていることから、著作者人格権の侵害にも相当するとして慰謝料も1掲載につき1万円の計算で上乗せしている。
国側は「承諾を得ていた」と主張
一方、被告らは「風土社から写真利用の承諾を得ていた」と主張。著作権使用料の支払いを拒絶している。 山下氏によれば、被告らとの間で写真の利用について契約書は結んでおらず、有識者会議の委員になるための承諾書を交わしただけだという。 原告代理人の門西栄一弁護士は、会見で「掲載された写真には、個人が所有する建物も写っている。山下さんは雑誌に掲載する際、建物所有者にも許諾を得ている。これは出版社として当然のことだ。しかし被告らは、国の関係機関が取り扱うことで、そうした当たり前のことを検討せずとも、短絡的に、(自分たちに)すべての許諾があるものと勘違いしているのではないか」と指摘した。 なお、本訴訟では損害賠償のほか、ウェブサイト上に掲載された写真の公衆送信の停止も求めている。すでに日本住宅総合センターのサイトからは写真が抹消されたが、国交省はいまだに同写真を削除しておらず、誰でも閲覧できるままとなっている。 ■杉本穂高 日本映画学校(現・日本映画大学)出身。神奈川県のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ(現・あつぎのえいがかんkiki)」の元支配人、現在は映画ライター。
杉本穂高