難聴に悩む人の孤独を減らすメタバース空間「手話の壁」も越えて広がる交流 「みみトモ。ランド」20代と70代が仲間に!?
インターネット上の仮想空間「メタバース」。自分の分身である「アバター」を操作してさまざまな体験や交流ができる。聞いたことはあっても日常生活に取り入れている人はゲームの利用者など一握りに過ぎないのではないだろうか。 【写真】「えっ、そんなことまで言っていたの?」聴覚障害者が初めて知った駅のホームにあふれる音たち マイクで集めた音をAIで視覚化、その名も「エキマトペ」 22年
そんなメタバースの一角に、難聴を抱える人や支援者らが毎晩のように集い、交流を深めている。聴覚障害者コミュニティー「みみトモ。ランド」は、およそ1年前の公開からのアクセス数は3万回以上。運営しているのは両耳が聞こえづらい高野恵利那さん(27)だ。看護師をしながら特定非営利活動法人(NPO法人)の代表理事を務める。「難聴に悩む人たちの孤独感を減らしたかった」。いじめられ、愛想笑いをしていた日々―。自身の学生時代のつらい経験が新しい〝つながり〟を生んだ。(共同通信=村川実由紀) ※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽聞こえたふりをして愛想笑い 高野さんは山梨県で育った。5歳ぐらいのときに中耳炎にかかり、両耳が中等度の難聴になった。全く聞こえなかったわけではなかったこともあり、小中高は特別な指導は受けず、通常の学級で過ごした。 状況にもよるが、例えば1対1の大きな声の会話の内容は分かっても、4人以上になると会話が聞き取りづらくなる。聞こえたふりをして愛想笑いしてしまい、コミュニケーションがうまくいかない。すぐに謝ってしまい、いじめられたこともあった。「私は普通ではないから仲間ができないんだ」と孤独感が強まり、自分のことをなかなか好きになれなかった。
▽孤独を解消できる居場所 周囲に自身の難聴のことを知ってもらえるよう丁寧に説明したことが影響したのか、後に友人ができた。 そんな経験からかつての自分のように障害を抱えた人や孤独を抱えた人に寄り添える仕事はないだろうかと模索し、看護師になる道を選んだ。夜勤をこなし、忙しい日々を過ごす中、仕事だけでは交流できる人の範囲に限界があることが気になった。 インターネット上に家や学校、職場とは異なる居場所「サードプレイス」を作れば、たくさんの難聴当事者の孤独を解消できるのではないか。そう考えて行き着いたのがメタバースだ。交流サイト(SNS)のX(旧ツイッター)ほど不特定多数を対象としないが、匿名性が高く、交流に適している。「参加者とリアルに近い感覚でやりとりができるのが魅力」という。 ▽「自分らしく過ごす」 メタバース空間では、半屋内の集会所のような場所の中で、自由にアバターを動かしたり、壁に貼ってある関係団体のイベントのポスターをクリックして閲覧したりできる。メタバース専用のゴーグルを使わなくても、スマホやタブレット、パソコンなどから、無料で利用できる。 ニックネーム、アバターを介し、チャット機能を使って文字で会話するので、ウェブ会議のようにカメラを気にする必要もない。24時間利用可能だが、「お風呂上がりに集まる人が多く、共通の話題で盛り上がれる」という。チャットの記録が閲覧できるため、後からメタバース空間に入ってきても会話に加わりやすい。