難聴に悩む人の孤独を減らすメタバース空間「手話の壁」も越えて広がる交流 「みみトモ。ランド」20代と70代が仲間に!?
「みみトモ。ランド」を立ち上げる過程でSNSなどを通じて仲間も増えた。学生時代は自分に自信がなかったが、最近は「表情が明るくなったり、人の目を見て話せるようになったりした」と周囲に言われることが増えた。「普通という言葉に捕らわれず、自分らしく過ごすことが大事だ」と今は思える。 ▽世代を超えたつながり 難聴に悩む人、医師、言語聴覚士、特別支援学校の先生など「みみトモ。ランド」にはさまざまな人が集まる。東京都品川区に住む真野守之さん(72)もその1人。NPO法人人工聴覚情報学会の代表理事をしている。 真野さんは40代で聴力を完全に失った。何も聞こえない状態で3年過ごした後に人工内耳の存在を知り、埋め込み手術を受けて聴力を回復した。音を電気信号に変換し、脳に伝えるこの機器をもっと早く知っていれば良かったとの後悔から「医療情報を正しく伝える活動をしよう」と、治療のバリエーションや専門家が集う学会の情報を伝えるホームページを開設した。専門家のインタビュー動画の公開やイベントの情報の紹介など難聴に関係のある情報を集約している。
真野さんは高野さんたちの活動を知り、難聴の人に適した新しい交流の手段だと思い、協力を申し出た。自身も利用する中で、メタバース空間では「年齢を意識せずにやりとりができる」と感じている。20~30代を中心に幅広い世代が集っている。 真野さんは、高野さんらからメタバースを含む新しいプラットフォームの利用のノウハウなども学んでいる。「つながりあえるはずがなかった人と出会える。オンライン会議も教えてもらってできるようになった。キーボードのタイプも速くなったんです」とうれしそうに話す。 つながりを生かし、メタバース空間で難聴をテーマに最新の情報に触れられるイベント「難聴万博」を3~4月に実施することもできた。高野さんは「私は今でも長期にわたる人間関係を築くのが苦手。苦労しないよう、できるだけ若いうちに補聴器、人工内耳という手段を知ってもらえれば良い」と願う。 ▽手話という言語の壁 難聴といっても状態は人それぞれ。全く聞こえない人もいれば片耳だけ難聴の人、補聴器や人工内耳を使って問題なく会話ができる人もいる。「みみトモ。ランド」をよく利用するある男性は人工内耳を使っても聞き取りづらいため、手話を第1言語にしている。メタバース空間ではチャット機能を用いた文字で会話するため、読み書きさえできれば手話が分からない人とも交流ができる。 高野さんは「手話ができないことで、リアルだと仲良くなれる可能性が低かった人とも友だちになれたことってすごいことじゃないですか」と話す。高野さんはもともと手話ができなかったが、この男性らと交流をしている中で少しだけ手話を覚えた。
「困っている人を支援できるポジションに居続けたい」。これからもメタバースの運用などを通して、難聴を含む障害がある人がストレスなく働き、収入をしっかり得られるような社会環境づくりの一助になりたいと考えている。