【実録 竜戦士たちの10・8】(25)緊迫した空気流れた巨人OB会…長嶋監督の『落合』という戦力補強には拒否感も
◇長期連載【第1章 FA元年、激動のオフ】 1993年12月4日。静岡県熱海市の「後楽園ホテル」には川上哲治、千葉茂、青田昇ら、球界のご意見番たちが集まっていた。毎年恒例の巨人OB会だが、この年は例年とは少し違い、大宴会場には緊迫した空気が流れていた。 まず開会のあいさつに立ったOB会長の別所毅彦が、表情も厳しく「2つ言いたいことがある」と口火を切った。 「一つは同じ選手にやられ過ぎる。もう一つは後半戦に弱い。われわれの時代は一度やられたピッチャーには向かっていったし、前半戦は悪くても、後半戦に頑張った。このへんを踏まえて、何とかお願いしますよ」 この年の巨人は球宴後こそ、首位・ヤクルトに2・5ゲーム差まで迫ったが8月以降に負けがこみ、早々と優勝争いから脱落した。OBからの手厳しい指摘には、長嶋茂雄監督も、ひたすら頭を下げるしかない。 「今年一年間、皆様方のイライラ、ストレスの塊のような不満は、すべて私の責任です。ヒシヒシとその重みを感じています。選手、それにわれわれ指導者が十分反省して、来季へ備えたいと思います」 さらに「敗軍の将、多くを語らずと言いますから」と前置きしながら「いずれにしても、勝つ確率をありとあらゆる角度から分析して、来年お目にかかるときは、心から喜んでもらえるように頑張りたいと思います」。硬い表情で来季巻き返しを誓うと、知人の通夜に出席するため、早々に退席した。 取材に駆けつけた担当記者たちの狙いはOB会そのものより、長嶋が目指す落合博満獲得について、OBたちの反応を探ることにあった。記者から「落合…」の名前が出た途端、「いらん!」とハネつけたのはOB会顧問の千葉だ。 「長嶋は監督になるとき、若返りを図って3年後ぐらいに黄金期をつくると言うとった。われわれは、応援しないと言うんじゃない。チームにしっかりした方向性があるのなら応援する。しかし、訳の分からないものは応援できん」 近くにいた青田が「まあまあ」となだめに入るほどのけんまくだったという。その青田も「長嶋は現場の責任者。温かい目で見守ってやろうじゃないか」と言いながらも、若返りに逆行する戦力補強には首をかしげた。 賛否両論というより有力OBの大半が「否」を唱えた落合獲り。だが、そんな「落合は巨人で決まり」ムードに”待った”をかけたのはナント、落合本人だったのだ。 =敬称略 (館林誠)
中日スポーツ