首相のイラン訪問「ハメネイ師発言」を正確に伝えない政府
核合意からの離脱や経済制裁をめぐって緊張が高まる米国とイラン。その「仲介」役となるべく、日本の首相として安倍晋三首相が41年ぶりにイランを訪問しました。この訪問をどう評価するべきか。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【写真】安倍首相は米国とイランの仲介をできるか?
ハメネイ師は米国と協議しない意思を表明
安倍首相は6月12日から14日までイランを訪問し、ハメネイ最高指導者及びロウハニ大統領と会談しました。ところが安倍首相がハメネイ師と会談したその日に、イランとアラビア半島を隔てるホルムズ海峡付近で日本とノルウェーのタンカー2隻が攻撃を受けるという衝撃的な事件が発生しました。この事件の真相は明らかになっていません。安倍首相のイラン訪問と関係があるのかという疑念も生まれました。 安倍首相がイランを訪問し、ハメネイ師及びロウハニ大統領と会談したことは日本とイランの関係において重要なことであり、今後のさらなる発展の基礎となるでしょう。 また、安倍首相は今回の訪問で、イランと米国の間の仲介を試みました。事前にトランプ米大統領から要請されていたことです。しかし、この点ではいくつかの問題が浮かび上がりました。 第1に、イランと米国の協議が実現するか、という観点です。これを実現すること、あるいはその実現につなげることは、緊張状態にある両国間において最重要の課題ですが、極めて困難な問題でもあり、正直、安倍首相による努力だけで実現する可能性は低いと日本政府も見ていたのではないかと思います。 日本政府が安倍首相のイラン訪問について、「協議」に焦点を当てず「緊張緩和に資する」という一般的な成果に重点を置いて説明してきたことにも、政府の認識がにじみ出ていました。イランと米国の協議実現に期待感を抱かせると、成功しなかった場合に「失敗だった」と批判されるからでしょう。
しかし実際には、イランと米国との協議の問題は、安倍首相とハメネイ師との会談でしっかりと取り上げられ、そして結果は「ゼロ回答」でした。ハメネイ師はこの問題に何の関心も示さなかったどころか、そもそも米国との交渉に否定的でした。 詳しく言えば、安倍首相がトランプ大統領からイラン指導部へのメッセージを預かっていると切り出したのに対し、ハメネイ師は「トランプ(大統領)とメッセージを交換する価値はない。今も今後も返答することは何もない」と述べました。 さらに、安倍首相が米国は核問題でイランと協議することを求めている、と語ったのに対し、ハメネイ師は「イランは米国や欧州諸国の6か国による核協議を5年から6年行って、合意に達しました。しかし、米国は合意を無視し、破棄しました。どのような常識感覚があれば、米国が合意したことを投げ捨てておきながら、再度、交渉をするというのでしょうか? 私たちの問題は、米国と交渉することでは決して解決しません。どんな国も圧力の下での交渉は受け入れられないでしょう」と反論しました。 つまりハメネイ師は、米国(特にトランプ政権)とは核協議をしない、そもそも相手にしたくないとの意思を表明したのです。