首相のイラン訪問「ハメネイ師発言」を正確に伝えない政府
「核兵器製造しない」発言を強調する日本政府
第2の問題は、日本政府の説明には、ハメネイ師発言のこの「キモ」のくだりが全く触れられていないことです。首相官邸のサイトは「イランの最高指導者である、ハメネイ師と直接お目にかかり、平和への信念を伺うことができました。これは、この地域の平和と安定の確保に向けた大きな前進であると評価しています。またハメネイ師からは、核兵器を製造も、保有も、使用もしない、その意図はない、するべきではないとの発言がありました」と記述しています。外務省ホームページの説明も同様です。 一方、イランのファルス通信は、ハメネイ師の公式ウェブサイトに基づき会談内容を詳しく伝えました。イランと米国の協議に関する前述のやり取りは、同通信が伝えたことです。 イラン側の説明と日本側の説明にはこうした食い違いがみられます。もしイラン側の報道が誤りであれば、日本政府は抗議して訂正を求めるはずですが、そうした兆候はありません。したがって、私はイラン側のハメネイ師発言に関する報道は正確だと判断したのです。 日本側の説明とイラン側の報道が食い違っていることは、ジャーナリストの川上泰徳氏がYahoo!ニュース個人の記事「安倍首相のイラン訪問 緊張緩和の仲介とは程遠い中身と日本側の甘い評価」で詳しく説明しています。欧米の主要メディアもファルス通信の報道を引用しています。 つまり、世界中が安倍首相とハメネイ師との会談の「キモ」を知っているのに、日本の公式見解では、それが全く伝えられていないのです。 日本では、安倍首相がイラン側から核兵器を開発しないという発言を引き出したことが大きく報じられました。それが重要でないとは言いませんが、現時点で切迫した問題ではありません。イランは以前から核兵器を開発しないと説明していますし、イラン核合意を検証している国際原子力機関(IAEA)も、イランは今日まで合意に違反していないと報告しています。ハメネイ師の発言は、最高指導者の発言という重みはありますが、内容的に新味はないのです。 余談かもしれませんが、こうした日本政府の説明からは、都合の悪いこと(イランに米国との協議を勧めたが、ゼロ回答だったこと)は隠し、あるいはなかったかのように装うという姿勢が感じられてなりません。私は心配を通り越して憤りを覚えます。外交交渉では一時的に公にできないことがあるのは常識ですが、白黒を逆にして説明するようなことは許されません。