首相のイラン訪問「ハメネイ師発言」を正確に伝えない政府
イスラエル寄りの米国に同調し過ぎるリスク
さらに今回のイラン訪問の最中には、ホルムズ海峡でタンカー攻撃事件が発生しました。果たして、安倍首相の訪問と関係があるのかは分かりません。本当のことは明らかにならないまま迷宮入りすることも考えられます。 しかし少なくとも、この事件は中東情勢の複雑さを象徴しています。これまで中東で均等な外交を展開してきた日本にとっては、非常に危険な状況になっているといえます。米国のポンぺオ国務長官は「分析の結果、イランに攻撃の責任がある」と発表しました。これに対してイランは、米国の主張には根拠がないとして全面的に否定しています。 日本は、イランと米国の間の争いに巻き込まれてはなりません。菅義偉(よしひで)官房長官が、この問題について慎重に発言しているのは当然ですが、日本としては今後もポンぺオ長官の分析に不用意に同調しないよう注意が必要です。 特に、米国がイランに対して極めて厳しい態度で臨むのは、米国がイスラエル寄りのスタンスだからです。日本は米国との関係が最も重要ですが、一方で中東の石油に深く依存しており、米国と同じような態度は取れません。イスラエルにもイランにも偏らない姿勢を維持することが必要です。
------------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹