ヘリ墜落の長野県、山岳遭難に備え警察・消防連携で特別態勢へ
今年3月の墜落事故で消防防災ヘリコプターを失った長野県が20日、消防・警察の連携強化を目指す初の会議を県庁(長野市)で開き、山岳遭難救助に向け事実上の特別態勢を取ることになりました。遭難救助の大半はヘリに依存しているため、防災ヘリ喪失の影響は大きく、警察、消防の連携強化で態勢を立て直す狙い。 ただ、これまでも警察など救助組織への負担は拡大し、高齢登山者などで増える遭難への対応は人員や能力面で厳しさを増す一方。山岳県として全国有数の救助体制整備を迫られてきた長野県が窮地に立ったとも言え、同県に限らず遭難救助の在り方を見直すきっかけにもなりそうです。
「県警などの応援が欠かせない」
会議は長野県警22署と県内13地区の消防本部・消防局の担当者ら70人が出席。県側は冒頭、「3月に防災ヘリ・アルプスを失った。現在の救助体制は県警などの応援で保たれている。防災ヘリの再建に向け県は現在検討中であり、その間県警などの応援が欠かせない状況だ」と説明。救助活動の際の警察と消防の連携がいっそう必要となった現状を明らかにしました。 長野県は消防防災ヘリ喪失後、県警ヘリ2機と隣接県からの応援で遭難救助に対応。訓練を積んだ県警の山岳遭難救助隊の35人の隊員は松本、安曇野、大町、茅野、駒ケ根の5署に配置し、年間270件余の遭難救助に当たっています。県内22署にいる県警山岳高原パトロール隊の警察官110人も地域の山岳遭難防止対策協会(遭対協)と連携して活動していいます。 会議で県警・消防はそれぞれの立場で現状と課題などを説明。その後、県内12地域に分かれた分散会で警察と消防の連携の課題などを検討しました。
「大きな整備では2~3か月」
分散会に先立つ全体会議で「山岳遭難の現状と対応」について県警山岳遭難救助隊の櫛引(くしびき)知弘隊長が報告。遭難救助の80%はヘリの出動によるが、視界不良、見通しが利かない樹林帯や谷間などで救助できないこともあり、地上からの救助隊のバックアップが重要だと指摘しました。 その半面、ヘリが動けないときに出動する地上隊も悪天候などの厳しい条件下での行動は大きな負担になるとし、加えて緊急の出動では規模の小さな警察署では人員のやりくりに追われる――などを説明。中には地域の遭対協の出動を断る遭難者もおり、急きょ現地に警察官を増員するケースもあるなどと現状を述べました。 ヘリの運用について櫛引隊長は「一定時間飛ぶと整備が必要になり、大きな整備では2~3か月かかることもある。このため(急きょの救助要請に即応するため)飛行時間を抑止せざるを得ない」と、現場の判断の難しさを指摘。 救助要請があったときの警察官の動員態勢について同隊長は「救助隊員の警察官は通常の勤務に就いており、救助の要請があれば当直明けや非番の警察官にも招集がかかる。その負担は大きい」と説明。普段、交番勤務などの警察官も、出動時に体力不足で困ることのないよう勤務時間外の自分の時間をトレーニングに充てている、と話しました。 こうした現場の実態を踏まえて櫛引隊長は消防との連携について(1)遭難者からの聴取については、携帯電話などの電波状態が悪く連絡が途絶えることがあるので、(遭難地点、氏名など)なるべく多くの重要情報を収集してほしい、(2)救助隊員がいる署以外には山に詳しくない警察官もいるが、地域によってはこれまでも消防とうまく連携している。傷病者が出た場合などは対応できないこともあるので、ぜひ連携をお願いしたい――と要望しました。