なぜ、今、北斎なのか? 東京五輪を前にヨーロッパの熱気を逆輸入
パスポートにも冨嶽三十六景
ところで、現在、六本木で開催されている新・北斎展の特設ミュージアムショップには、日本のパスポートに北斎の「冨嶽三十六景」が採用されることを伝えるパネルが展示されている。外務省によると、現行のパスポートはすべてのページが同じデザインだが、新パスポートでは見開きページ毎に「冨嶽三十六景」の各作品がデザインされ、すべてのページを異なる「冨嶽三十六景」作品にする。 パスポートは新たな偽変造対策をとりいれるために定期的にセキュリティの仕様が更新されており、今回のデザイン変更もその一環だという。当初、正月やひな祭りなど日本人が持つ原風景に似た情景や、鶴や桜などをモチーフとしたデザインも候補にあったということだが、「冨嶽三十六景」は日本を代表する浮世絵の一つであり世界的に広く知られていること、そして世界遺産でもある富士山をモチーフとしていることから採用が決定したという。外務省は2019年度中の導入を目指している。
ジャポニスムを打ち出した日本の対外文化策
大盛況のうちに幕を閉じたパリの北斎展から3年後の2017年、今度はロンドンの大英博物館で北斎展が催され、ヨーロッパは再び北斎の熱気に包まれた。その間の2016年には、安倍晋三首相が日仏首脳会談で日仏友好160周年となる2018年にパリで大々的に日本文化を紹介することを提案し、合意に至った。日本とフランスは1858年に日仏修好通商条約を締結、2018年は160周年にあたっていた。 そして実際に昨年7月からパリを中心に日本文化を紹介する大規模な複合型文化芸術イベントが次々と展開されているわけだが、その名称は「ジャポニスム2018」。この企画は2020年の東京オリンピックをも見据えたものだ。クールジャパンに代表される政府の対外文化策は、オリンピックを前にジャポニスムへとシフト。パスポートに北斎を起用したことも、こうした流れに沿ったものと考えられる。そして、ジャポニスムを打ち出した対外文化策の背景には、ヨーロッパの美術界を中心とした北斎ブームがあるといえそうだ。 ヨーロッパに渡りジャポニスムを生んだ北斎に代表される日本の芸術。その熱は長い年月を経てヨーロッパで再燃し、今度はオリンピックとともに日本へと向かっている。19世紀後半、ヨーロッパに沸き起こったジャポニスム。21世紀の日本にはいったい何をもたらしてくれるのだろうか。 (フリーライター 三好達也)